労働時間等設定改善について
〜労働者の健康と生活に配慮した労働時間の設定に向けて〜

 昨年4月1日に労使による労働時間等の改善に向けた自主的な取組を促進するための特別の措置を講じることを目的に労働時間等の設定改善に関する特別措置法(労働時間等設定改善法)が施行されました。これを受け、本会では今年度、厚生労働省からの委託事業として「労働時間等設定改善推進事業」に取り組んできました。
 本誌では、法律の概要並びに労働時間等設定改善指針の中で本会が労働時間等の設定改善を推進する上で重点的に取り組んできた「実施体制の整備」、「所定外労働の削減」、「労働時間の管理の適正化」についての考え方を『スタディ』としてまとめましたのでご紹介いたします。

1 労働時間等設定改善法の概要

「労働時間等」って?
 労働時間、休日及び年次有給休暇その他の休暇のことです。
「労働時間等の設定の改善」というのは?
 労働時間等に関する事項の定め方を労働者の健康と生活に配慮するとともに多様な働き方に対応したものへ改善することです。
具体的にはどういうこと?
 労働者が心身の健康を保持できることはもとより、職業生活の各段階において、家庭生活、自発的な職業能力開発、地域活動等に必要とされる時間と労働時間を柔軟に組み合わせ、心身共に充実した状態で意欲と能力を十分に発揮できる環境を整備していくことです。
どうやって、労働時間等の設定の改善に取り組むの?
 労使でよく話し合って取り組んでください。その際、労働時間等設定改善指針の内容を参考にしてください。

2 労働時間等設定改善指針策定の背景

 我が国の経済的地位にふさわしい豊かでゆとりのある労働者生活の実現には未だ多くの課題を抱えていますが、労働時間の短縮は着実に進んで年間総実労働時間が平成16年度に1834時間となり、時短推進計画の目標「1800時間」をおおむね達成することができました。
 しかし、近年の成果は、主に労働時間が短い者の割合が増加した結果であり、いわゆる正社員等については、依然として労働時間は短縮していません。一方、労働時間が長い者と短い者の割合が共に増加し、いわゆる「労働時間分布の長短二極化」が進展しています。また、年次有給休暇の取得率は低下傾向にあります。そして、長い労働時間等の業務に起因した脳・心臓疾患に係る労災認定件数が高水準で推移しています。さらに、急速な少子高齢化、労働者の意識や抱える事情の多様化等が進んでいます。
 そこで、労働者が、心身の健康を保持しつつ、職業生活の各段階において、家庭生活、自発的な職業能力開発、地域活動等に必要とされる時間と労働時間を柔軟に組み合わせ、心身共に充実した状態で意欲と能力を十分に発揮できる環境を整備していくことが必要であり、そのための参考事項を労働時間等設定改善指針に示しています。

労働時間等設定改善指針
1 事業主が講ずべき一般的な措置
(1) 実施体制の整備
・始業・終業時刻、年次有給休暇の取得などの実態の把握
・労働時間等設定改善委員会などの労使間の話し合いの機会の整備
・担当者の配置、処理制度の導入で個別の要望や苦情を処理
・業務計画・要員計画策定等により業務の見直し
(2) 労働者の抱える多様な事情および業務の態様に対応した労働時間等の設定
・業務の繁閑に応じた労働時間の設定(変形労働時間制・フレックスタイム制の活用)
・労働者の創造性や主体性が業務の進め方に必要な業務に携わる者についての労働時間の設定(裁量労働制の活用の検討)
(3) 年次有給休暇を取得しやすい環境の整備
・年次有給休暇を取得しやすい雰囲気づくり、意識の改革
・個人別年次有給休暇取得表の作成、業務体制の整備、取得状況の把握
・年次有給休暇の計画的付与制度の活用
・週休日と年次有給休暇とを組み合わせた2週間程度の連続した長期休暇の取得促進
・労働者の希望を前提とした半日単位での年次有給休暇の導入
(4) 所定外労働の削減
・意識の改革、「ノー残業デー」「ノー残業ウィーク」の導入・拡充等
・所定外労働を行わせた場合の代休の付与等による総実労働時間の短縮
・時間外労働の限度時間の厳守
(5) 労働時間の管理の適正化
(6) ワークシェアリング、在宅勤務等の活用
(7) 国の支援の活用

2 特に配慮を必要とする労働者について事業主が講ずべき措置
(1) 特に健康の保持に努める必要があると認められる労働者への配慮
・健康診断や面接指導の結果を踏まえた医師等の意見を勘案し、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少などの措置を適切に講ずる
・病気休暇から復帰する場合の円滑な職場復帰支援(短時間勤務から徐々に通常の時間に戻すなど)
・所定外労働が多い労働者について、代休やまとまった休暇の付与等、業務の見直し、配置転換
(2) 子の養育または家族の介護を行う労働者への配慮
・育児・介護休業法の遵守と周知(育児・介護休業、子の看護休暇、時間外労働の制限、深夜業の制限、勤務時間の短縮等の措置等)
・年次有給休暇の取得促進、時間外労働の削減による育児・介護に必要な時間の確保
(3) 妊娠中および出産後の女性労働者への配慮
・労働基準法の妊産婦に関する規定の遵守
・妊産婦の保健指導・健康診査を受けるために必要な時間の確保
(4) 単身赴任者への配慮
・休日の前日の終業時刻の繰り上げ、休日の翌日の始業時刻の繰り下げ
・労働者の希望を前提とした休日前後の年次有給休暇の半日単位の付与
・誕生日など家族にとって特別な日についての休暇の付与等
(5) 自発的な職業能力開発を図る労働者への配慮
・有給教育訓練、長期教育訓練休暇など特別な休暇の付与、始業・終業時刻の変更、時間外労働の制限等
(6) 地域活動等を行う労働者への配慮
・特別な休暇の付与、労働者の希望を前提とした年次有給休暇の半日単位の付与等

3 スタディ(労働時間等設定改善推進のポイント)

スタディ1:労働時間等の設定の改善をするための体制整備と取組み……
(1) まずは、「始業・終業時刻」、「年次有給休暇の取得」、「所定労働時間に対する業務負担の度合い」などの労働時間等の実態を正確に把握することが必要です。
(2) 労使間の話し合いの機会の場として、「労働時間等設定改善委員会の設置」、「既存の衛生委員会等を労働時間等設定改善委員会として活用」、「推進者を選任し、時間外検討委員会を設置」、「労使協議会にプロジェクトチームを設置」、「労働組合と提携し、労働時間問題検討委員会を設置」などが考えられます。
(3) 個別の要望や苦情にも応じられる体制づくりでは、労使双方の代表者を選出する場合、労働者の多様な事情を理解している人が望ましいとされています。
(4) 設定改善の取組としては、「業務内容や業務体制を改善することにより、効率的な業務処理を図る」、「計画性をもって取組み、必要に応じて見直しをするなどの業務の改善・見直し」が考えられます。

スタディ2:所定外労働を削減するために……
(平成13年10月24日 厚生労働省発表「所定外労働削減要綱の改定について」から抜粋)
(1) 労使の労働時間に関する意識改革
 所定外労働は、その長さが問題であることに加えて、労働時間の長いことをあまり問題にしない労使双方の意識にも問題がある。特別な仕事もないのにつきあいで残業したり、労使双方に所定外労働を当然視するような傾向も一部に見られ、まずは、「職場に長時間いることが善である」といった風潮を改め、「所定外労働は臨時・緊急の時にのみ行うもの」との意識を改革する。
(2) 業務体制の改善
 所定外労働が減らないことの原因として、業務体制が所定外労働を前提としたものになっていることが挙げられる。このため、本当に必要な業務だけをやるというように発想を切り換え、所定外労働を前提とした仕組みを見直していく(適切な要員配置、業務計画及び要員計画を策定、多能化の推進、勤務体制の改善など)。
(3) 労使一体となった委員会の設置
 労使一体となった委員会を設置して、所定外労働や休日労働の削減に向けた目標の設定、具体策の検討及び実施、所定外労働の実態把握、具体策の改善へのフィードバック等の一連の取組みを行い、労使が一体となって目標管理を行うとともに主体性を持って取り組み、所定外労働は例外的なものであるとの意識の定着化を図る。
(4) 「ノー残業デー」「ノー残業ウィーク」の導入・拡充
 所定外労働時間の削減については、安易に所定外労働が行えないような仕組みをつくることも必要である。
(5) フレックスタイム制や変形労働時間制の活用等
 所定外労働がなぜ減少しないかを勤労者にきいてみると、「所定労働時間内では仕事が終わらない」に次いで、「仕事の繁閑が激しい」「取引先の仕事や顧客へのサービス」をあげるものが多い。また、月単位や季節的に業務の繁閑が生じるような場合には、労使で十分に話し合った上で変形労働時間制を導入し、業務の繁閑に応じて労働時間を弾力的に配分し、労働時間の無駄を省くことも所定外労働を減らしていく上で効果的である。
(6) ホワイトカラー等の残業の削減
 定型的ではない、創造性を必要とする業務が増えているために、労働時間を管理していくことが困難なホワイトカラーの時間外労働については、残業や休日労働を行わせる場合の手続きを厳正なものとすることはもとより、使用者が、自ら現認することにより始業終業時刻を確認し、記録することや、タイムカード・ICカード等の客観的な記録を基礎として、始業終業時刻を確認し、記録することなど、労働時間を適正に把握することにより残業時間の削減を図るようにする。
(7) 時間外労働協定における延長時間の短縮
 時間外協定(36協定)の締結に当たっては、業務区分を細分化し、その区分に応じて時間外労働を必要最小限のものとし、業務の改善を進めながら、徐々にその時間を短縮していくようにする。
(8) 「原則限度時間」の設定
 時間外労働協定の延長時間までは所定外労働が許容されるとの安易な姿勢をなくすため、時間外労働協定の延長時間とは別個に、労使で「原則限度時間」を定め、これが時間外労働協定の延長時間を下回るように設定し、原則としてこれを超える時間外労働は行わないようにする。
(9) 所定外労働を行う理由の限定
 安易な所定外労働をなくすために、所定外労働を行うに当たっては、できる限り事前に労使で話し合うように努める。また、「原則限度時間」「原則限度時刻」を超えて、又はノー残業デー等に時間外労働を行う場合や休日労働を行う場合には、よほどの理由がなくては、所定外労働を行わないこととし、その理由を、あらかじめ労使で十分話し合った上で、具体的、限定的に明示しておくことが有効と考えられる。
(10) 代休制度の導入や休日の振替
 時間外労働や休日労働が一定時間以上行われた場合には、家庭生活に及ぼす影響や健康の維持・回復を図るという観点から、時間外労働や休日労働の時間数や日数に応じて代休を付与するようにする。また、休日労働については、できる限り行わないようにし、やむを得ない場合であってもあらかじめ休日の振替を行うことにより、必要な休日をきちんと確保するようにする。

スタディ3:労働時間を適正に把握するためには……
(平成13年4月6日 厚生労働省労働基準局長発表「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」から抜粋)
(1) 始業・終業時刻の確認・記録
 使用者は、労働時間を適正に管理するため、労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、これを記録する。
(2) 始業・終業時刻の確認及び記録は原則として客観的な方法による
 使用者が始業・終業時刻を確認し、記録する方法としては、
(ア)使用者が、自ら現認することにより確認し、記録する。
(イ)タイムカード、ICカード等の客観的な記録を基礎として確認し記録する。
(3) 自己申告制により始業・終業時刻の確認及び記録を行う場合の必要事項
 タイムカードやICカード等の方法によることなく、自己申告制により行わざるを得ない場合は、
(ア)自己申告制を導入する前に、その対象となる労働者に対して、労働時間の実態を正しく記録し、適正に自己申告を行うことなどについて十分な説明をする。
(イ)自己申告により把握した労働時間が実際の労働時間と合致しているか否かについて、必要に応じて実態調査をする。
(ウ)労働者の労働時間の適正な申告を阻害する目的で時間外労働時間数の上限を設定したりしない。
 また、時間外労働時間の削減のための社内通達や時間外労働手当の定額払等労働時間に係る事業場の措置が、労働者の労働時間の適正な申告の阻害要因となっていないか確認する。また、阻害要因となっている場合は改善する。
(4) 労働時間に関する記録の保存
 労働時間に関する記録について、労働基準法第109条に基づき、3年間保存しなければならない。
(5) 労務管理の責任者は労働時間も管理する
 労務管理を行う部署の責任者は、労働時間管理の適正化に関する事項も管理することとし、労働時間管理上の問題点の把握及びその解消を図る。
(6) 労使協議組織(労働時間等設定改善委員会等)を活用する
 事業場の労働時間管理の状況を踏まえ、必要に応じ労働時間等設定改善委員会等の労使協議組織を活用し、労働時間管理の現状を把握の上、労働時間管理上の問題点及びその解消策等を検討する。



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