新しい『会社法』がスタートします

 昨年6月29日に成立した新「会社法」が、今年5月より施行される見通しとなりました。この会社法は現行の商法、商法特例法、有限会社法を整理・統合したもので非常に多くの改正がなされております。主な改正点は次の通りです。

内  容
現行制度
新「会社法」
条文表記
カタカナ文語体
ひらがな口語体
設立できる会社
株式会社、有限会社、合名会社、合資会社
株式会社、合名会社、合資会社、合同会社(日本版LLC)
最低資本金額
株式会社:1,000万円
有限会社:300万円
制限なし
同一市町村の類似商号
不可
可能(商標登録されているものを除く)
発起設立時の払込金保管証明
必要
残高証明でも可
会社の機関設計
株式会社:株主総会+取締役会+監査役
有限会社:社員総会+取締役会(+監査役)
・株式譲渡制限会社では、取締役会の設置が任意
・株主総会+取締役(最低1名)も可
取締役・監査役
の人数・任期
取締役
株式会社:3人以上、任期2年
有限会社:1人以上、任期なし
3人以上、任期2年が原則
株式譲渡制限会社は1人以上で任期は最長10年まで延長可
監査役
株式会社:1人以上、任期4年
有限会社:設置は任意、設置した場合は任期なし
1人以上、任期4年が原則
株式譲渡制限会社は設置は任意、任期は最長10年まで延長可
会計参与
規定なし
新設。全ての株式会社で設置可能

1 会社の形態

(1) 有限会社の新設はできなくなる
 新会社法施行後は株式会社制度に一本化され、新たに有限会社を設立することはできなくなります。ただし、既存の有限会社についてはこれまでの規律を維持するために必要な経過措置が設けられ、今後、有限会社には次の選択肢があります。

[1] 新会社法施行後も有限会社を存続する
 自動的に「特例有限会社」となり、引き続き「有限会社」の商号使用が認められます。そのための定款変更や登記申請等は原則不要です。
(注:ただし、新会社法施行時に、旧有限会社が、議決権の数または議決権を行使することができる事項、利益の配当、残余財産の分配について定款に別段の定めをしている場合は、新会社法施行日から6ヵ月以内に「みなされた株式の種類、内容及び種類ごとの数」を登記しなければなりません。)

[2] 新会社法施行後に株式会社へ移行する
定款における株式会社への商号変更、特例有限会社の解散登記及び株式会社の設立登記を行う必要があります。また、今回の改正では最低資本金制度が撤廃されるため、資本金を増額する必要はありませんが、それまでなかった取締役に任期が生じ、決算公告も必要となります。

(2) 合同会社(日本版LLC)の新設

  新会社法では、「有限責任社員」のみで構成され、「組織の内部自治」が認められる新たな会社類型として、合同会社が新設されました。社員1人から設立でき、有限責任(出資者が出資範囲内で責任を負う)で役員の権限や利益配分などを自由に決定することが可能であり、また、取締役会・監査役などの設置も不要です。


2 会社設立手続きの簡素化

(1) 最低資本金制度の撤廃
 これまで株式会社1,000万円、有限会社300万円の最低資本金が必要でしたが、新会社法では、最低資本金制度が撤廃され、資本金1円でも会社を設立することができます。ただし、あくまで資本金の最低基準がなくなるのであり、資本金制度そのものは存続します。

(2) 類似商号規制の廃止
 新会社法では、これまで同一市町村内において他人が登記した商号について、同種の営業について登記することを禁止していた「類似商号規制」を廃止するともに、「会社の目的」の柔軟な記載が認められます。
ただし、新会社法施行後は、同一住所、同一商号の登記の禁止や、新会社法・不正競争防止法の規定により、不正目的の商号使用差止め、損害賠償請求が可能とすることにより、不正目的の商号使用防止を図ることとしています。

(3) 払込金保管証明制度の一部廃止
 発起設立により会社を設立する場合、資本金の払込みについては銀行等による「払込金保管証明」を不要とし、代わりに残高証明でよいこととなります。ただし、募集設立の場合は、現行通り払込金保管証明が必要となります。

3 株式会社の機関設計

(1) 株式譲渡制限会社
 「株式譲渡制限会社」とは、すべての株式の譲渡について、会社の承認を必要とする旨の定めを定款に置いている株式会社のことです。
 新会社法では、有限会社制度を廃止して株式会社制度に一本化するとともに、株式譲渡制限会社には、株式会社でありながら現行の有限会社に準じた簡易な規制を選択することを許容しており、株式譲渡制限会社であるかどうかが機関設計の新たな基準となってきます。

(2) 中小企業にマッチした機関設計
 会社の機関とは、取締役(会)、監査役(会)、会計参与・会計監査人、株主総会などを指し、これらを組み合わせることを機関設計といいます。
特に多くの中小企業が該当する「株式譲渡制限会社」では、次のように選択肢が広がり、会社の実態に合わせた設計ができるようになります。(詳細は表−1参照)
 [1] 取締役会が任意の機関になる。
 [2] 取締役会を置かない会社では、取締役は最低1名でもよい。
 [3] 取締役会を置く会社では、取締役は3名以上必要で、「会計参与」を設置すれば監査役の設置は任意となる。
 [4] 取締役(2年)、監査役(4年)の任期を定款で定めれば最長10年まで延ばせる。

表−1 中小株式会社の機関設計のパターン例
1
株主総会
取締役
 
 
 
 
2
株主総会
取締役
 
監査役
 
 
3
株主総会
取締役
 
監査役
会計監査人
 
4
株主総会
取締役
 
 
 
会計参与
5
株主総会
取締役
 
監査役
 
会計参与
6
株主総会
 
取締役会
 
 
会計参与
7
株主総会
 
取締役会
監査役
 
 
8
株主総会
 
取締役会
監査役
 
会計参与
9
株主総会
 
取締役会
監査役
会計監査人
 
10
株主総会
 
取締役会
監査役
会計監査人
会計参与
※1〜6は株式譲渡制限会社のみ可能。
※これまでの中小企業の機関設計は基本的に7のみであった。

(3) 取締役会を設置しない会社の株主総会
 取締役会を設置しない会社では、次のように株主総会の決議事項が拡大されるとともに、その招集手続きが簡素化されます。
[1]決議事項
 株式会社の組織、運営、管理その他株式会社に関する一切の事項
[2]招集通知
 会日の1週間前(定款でさらに短縮可)までに通知すればよく、方法も書面等によらず口頭でも可能になります。また、会議の目的事項の記載・記録も不要となります。

4 会計参与制度の創設

(3) 取締役会を設置しない会社の株主総会
「会計参与」は、株式会社が任意に設置できる新たな機関です。会計参与は、その会社の取締役・執行役と共同して、計算書類を作成し、また保存し、株主や会社債権者に開示することがその職務です。専門家が計算書類の作成に関与することによって、中小企業の計算書類の信頼性を高めることを目指して創設されるものです。

会計参与とは…
設 置
任意であるが、設置する場合は、定款での規定が必要。また設置した場合は、その旨および氏名または名称の登記が必要。
職 務
[1] 計算書類作成、[2] 株主総会における説明、[3] 計算書類の保存(5年間)、[4] 株主・債権者への開示、[5] その他
資 格
税理士(税理士法人含む)または公認会計士(監査法人含む)
兼 任
会社または子会社の取締役、執行役、監査役、会計監査人等との兼任不可。顧問税理士が会計参与となることは可能。
選 任
株主総会で選任
任期・報酬
取締役と同様の規定に従う。

5 剰余金分配手続きの自由化

(1) 剰余金の分配
 「株式譲渡制限会社」とは、すべての株式の譲渡について、会社の承認を必要とする旨の定めを定款に置いている株式会社のことです。
 新会社法では、有限会社制度を廃止して株式会社制度に一本化するとともに、株式譲渡制限会社には、株式会社でありながら現行の有限会社に準じた簡易な規制を選択することを許容しており、株式譲渡制限会社であるかどうかが機関設計の新たな基準となってきます。

(2) 決算書の種類
 新会社法では、株主への配当が株主総会決議でいつでも可能となるため、決算後の利益処分方法を示す「利益処分案(損失処理案)」の作成は求められなくなりますが、代わりに配当の原資となる剰余金の変動を示すものとして「株主持分変動計算書」の作成が必要となります。また、従来の「営業報告書」は、「事業報告」に名称が変更になります。

決算書(計算書類等)の種類
これまで
新会社法
貸借対照表
貸借対照表
損益計算書
損益計算書
営業報告書
事業報告
利益処分案
(損失処理案)
株主持分変動計算書
附属明細書
附属明細書

(3) 金銭配当と現物配当
 新会社法では、金銭以外の財産で配当を行う手続きが明文化されるため、自社商品等で配当を行う、いわゆる「現物配当」が可能となります。
 ただし、金銭配当の決議は株主総会の普通決議で足りますが、現物配当については、原則として株主総会の特別決議が必要とされます。

(4) 純資産額制限と分配可能額
 新会社法施行後に配当等を行う場合には、次の2つの制限があるので、注意が必要です。
[1] 純資産額制限
 配当を行う際、純資産額(貸借対照表上の「資本の部」合計)が、300万円未満の場合には、剰余金があっても株主に配当することはできません。
[2] 分配可能額
 新会社法では、
 ・配当
 ・自己株式の有償取得
 ・相続人に対する売渡請求、 等
のような会社財産が株主に払い戻される行為を「剰余金の分配」として整理し、分配可能額を超える剰余金の分配を禁止する統一の財源規制の下に置いています。
 分配可能額を超えて剰余金の分配を行った取締役やその行為に同意した取締役は、その分配額を弁済する責任が生じます。

(5) 決算公告
 これまで有限会社には決算公告義務がありませんでしたが、新会社法では、有限会社と株式会社が一本化されることに伴い、特例有限会社を除く全ての機関設計の株式会社で決算公告が義務付けられます。株式譲渡制限会社であっても決算公告が義務付けられますので注意が必要です。



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