グッドデザインへの道



 1996年から2001年まで秋田県企業の受賞商品は5社13点、そのうち9点は(有)栗久さんの商品である。
 今回は、昭和43年に県内初のグッドデザイン賞を受賞し、以来、受賞したグッドデザイン商品は17点を数え、曲げわっぱ業界だけでなく本県のクラフト界をリードしている(有)栗久の社長を務める伝統工芸士栗盛俊二氏を紹介します。



グッドデザインマークとは
 グッドデザインマークは、デザインの優れた商品を推奨することにより、国民生活の質の向上と企業のデザイン水準の向上を図ることを目的として、通商産業省(現経済産業省)により設立された制度です。 その選定基準は「用途に即して、適切な材料を有効に使用し、機能的に他の商品に比べて遜色なく、かつ美的感覚を満足させるよう総合的に造形されたもの。また、独創性があり、量産に適し、合理的な価格であるもの」とされています。


曲げワッパ職人へのきっかけ
 現在、伝統工芸品「大館曲げわっぱ」の新たな開発に次々と取り組んでいる栗盛氏は栗久六代目である。桜樺と曲げわっぱが溢れる工房で生まれ育った栗盛氏が、父の後を継ごうと決心したのは、中学を卒業する時である。
 「物を作るのが好きだし、店を継げば父親が喜ぶだろう」と考えて、能代工業高校木材工芸科へ進んだ。「早くから自分の将来を決めて、非常に良かった。自分の目的がハッキリしていたので、学校では知識を貪欲に吸収しました。高校の3年間は私にとってかけがえのない時代でした」と当時を振り返る。卒業時には家具職人への転進も考えたが、何よりも「自分の足許を見つめることが大切」と考えて、昭和42年に家業に入った。

 

グッドデザインへの挑戦
 木材工芸科を卒業したといっても、父との加工技術の差は歴然としていた。映画や洋画などを通じ西洋の生活様式に造詣が深かった父は、「これからは、積極的に日本の“モノ"を海外に紹介していく事が大切だ。そのためには、これまでなかったものをつくりあげて、積極的に発表していかなくては」と栗盛氏に昭和42年から始まったグッドデザインコンクールへの挑戦を奨めたのである。
 当時の曲げわっぱ商品は、円形や小判型をした商品しかなく、四角い形をした商品はなかった。そこで、栗盛氏は四角い曲げわっぱが出来ないものかと考え、試行錯誤を繰り返した。そして角の半径が50mm(R50)以下にすると商品が四角に見える事に気がついた。
 しかし、幾度トライしてもR50の壁は越せなかった。そんな中、鉄骨を井桁組み合わせた治工具を開発する。これによって見事四角い「角盆」を完成させ、秋田県で始めてグッドデザイン商品を作り上げた。この時以来、栗盛氏は、新たな商品を開発する際は治工具を作るようになった。これはカンを頼らず、治工具は手の助けとなり、また、何年経っても同じ商品を作り上げるための道具にもなっている。

使い手の立場からの商品デザイン
 「作り手といえども使い手の心わからずして何ものも開発できない。お客さんが要求するものを作れるのが職人。ものを作れるからといって職人ではない。」という信念を持ち、「時代は何を求めているのか。そのために自分は何の技法ができるのか」を日夜考えている。一番のアイデアマンは使っている人と考え、年間20回は各地で開催される百貨店のイベントでの直販売のため全国を走り回っている。ここでは、曲げわっぱの良さや商品の扱い方を説明するだけでなく、お客様がどんな使い方をし、どんなことを欲しているのかを直に聞けるチャンスがあるからである。そのコミュニケーションによってニーズを把握し、商品開発につなげている。これは大きな財産である。このような中から「サラダボウル」、「ざるせいろ」、「おひつ」、「徳久利」などの商品が生み出された。
 お客さんに喜んでもらえるモノを作れなければ製品ではない。作ったモノをお客さんが買ってくれる。これで始めて商売が成り立つのである。


サラダボウル

ざるせいろ
  
おひつ

徳久利
“使いやすさ”がすべて
 「時代によって、いろいろなモノが求められます。私はそうした時代の要請を少しだけ先取りした商品開発を心がけています。そして、商品は使いやすさがすべてです。使いやすい商品に勝るものはありません。これからは、日常生活の中でもっと使ってもらい、木が持つ良さや曲げわっぱの良さを知ってもらえれば、需要は高まるはず」と、日常生活の中で使ってもらえる商品づくりを心がけている。

 
 
曲げわっぱ業界として
 大館曲ワッパ協同組合では、平成12年度に意匠開発事業に取り組み、この中で現代生活にマッチした商品開発がなされた。ハンガー、CDラック、ワインラック、写真スタンドなど、その開発には栗盛氏も大きく関わっている。新商品開発のリーダー的存在である栗盛氏は、今後の業界としての取り組み方として、「2年に1回の新作展は絶対に必要で、今のラインを皆で踏襲していかなければならない。組合事業に関わることは、事業展開に勢いをつけることになる。このことは産地のますますの発展につながる。」と考えている。

写真スタンド

ワインラック

ハンガー

スリッパ掛け

CDラック

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