特別寄稿
中国との経済交流促進目指して
〜中国・寧波における畳表の買い付け随行レポート〜

秋田県 大連事務所
ジェトロ大連事務所 秋田経済交流部長 塚本 敦 氏


 昨今、秋田県においては、秋田港を中心として中国、韓国、ロシア等との対岸経済交流が以前にも増して活発化しております。今回、県内の畳製造業者が本会の懇談会を通じて、今年1月、資材である畳表を中国から直接輸入することになり、その調達に当たって随行を含めていろいろとご支援いただきました塚本氏から現地の様子をレポートとしてご寄稿いただきましたので、ご紹介致します。

中国の生活様式と畳

 中国人の家庭では室内で靴を脱ぐことはなく、ベッドを使用しており畳を使用することはないのだが、私の住む大連では戦前多くの日本人が住んでいたこともあり、意外な所でお目にかかることがある。昨夏、海に遊びに行くと休憩所として日本から輸入した簡易住宅が使用され、中には畳が敷き詰められていた。また戦後、一般住宅に畳を断熱材として使うケースもあったようである。中日辞典を引くと畳は中国語で「草」、「草席」、とされている場合が多いが、音訳として「榻榻密(タタミと発音)」も使われている。大連ではむしろこちらの方が広く知られており中国人同士の会話の中で普通に使われている。
 本来、畳とは無縁のはずの中国にこんな形で残っているのは興味深いことである。

畳製造業者の代表が中国を訪問

 さて、今回、秋田から畳表を買付けるため、畳製造業者のグループの代表として、磯崎忠次郎氏(有限会社磯崎畳店代表取締役)、庄司吉男氏(有限会社庄司畳店代表取締役)の両氏が中国を訪問することになった。
 畳表買付けグループは昨年3月、い草の産地である浙江省寧波市を訪問、問屋を通さずに共同輸入し、グループ内6名で等分する初の試みに成功している。
 今回は更に商社を通さずに直接輸入しようというもので、当事務所は主に現地企業の紹介、アポ取り、随行、通訳という形で側面支援することとなった。

商社を通さず、直接輸入するには

 中国側企業を探すにあたり、秋田側から依頼された条件は次のとおり。
 (1) 大規模で信用力のあること
 (2) 品質が均一であること
 (3) 日本と取引の実績があること
 (4) い草を専門に扱っていること
 商社を通さずに直接貿易する場合には品質、納期、支払いといったリスクを伴う。中国と直接取引していても高い授業料を払ったという会社は数多く、結局は商社のルートに乗った方が良かったという結果にもなりかねない。
 当事務所では、上記のうち(3)と(4)については事前に十分聴取して確認することとしたが、(1)と(2)については実際の品質、信用度について確かめようがなく、訪問して商品を確認、さらに実際に取引しなければ判らないというのが正直なところであった。後に磯崎、庄司両氏から伺ったところでは両氏も同じ考えであり、納得のいく品質が見つからなければ手ぶらで帰ることも覚悟しているとのことであった。

畳表の主産地・寧波市の現地企業を訪問

 中国の畳表の産地は、上海の南に位置する寧波市。全中国の90%がここで生産されている。他に福建省福州市、泉州市といった地域でも栽培されているが、気候が適している寧波のものがやはりいいという。
当事務所では、JETRO上海事務所に企業の調査と紹介を依頼。幸いにも日本の畳の産地である岡山県がJETRO上海内に駐在員を派遣しており寧波市の地元企業2社、日系企業1社とのアポ取りに成功した。
 1月11日(木)、買い付けグループと上海空港で落ち合ったが上海から寧波行きの飛行機が遅れ、夜9時40分発のはずが一向に飛ばない。結局飛んだのは夜12時。上海から寧波までは飛行機でわずか25分の距離であるが、ホテルに着いたときには夜中の1時を過ぎていた。
 翌日、稲刈り後の田でい草を栽培している光景を見ながら、市内から車で30分程度の距離にある畳工場へ向かった。

規格、品質ともに良好。商談成立!

 訪問した「寧波中藺東洲工貿有限公司」は旧正月前ということで従業員はすでに里帰り、操業は止まっていたが、朱國棟総経理(社長)の案内で在庫と工場の内部を見ることができた。織機、包装機はともに日本製を使用している。
 両氏は製品の内容を吟味、検討を重ねた結果、十分日本で通用する製品と判断、納期、決済方法等につき中国側と協議の末、契約した。

輸入者本人の熱意と周囲の支援が大事

 今回の商談については中国側が日本との取引実績のある企業であったこと、買い手が畳のプロであり製品を見る目が確かであったということだけではなく、昨年の共同輸入の経験をきっかけに貿易について勉強し、相当な知識を有していたことが大きなプラス要因であった。さらに取引銀行が事前に十分なレクチャーをしており、契約書の様式、商談に際しての注意事項等ペーパーにまとめて渡していたという熱心さであった。また、乙仲からも梱包や船積書類についての教示が事前にあった。こういった輸入者本人の熱意と周囲のサポート体制が契約にまで至った大きな要因であった。

輸入取引におけるメリットとリスク

 輸入取引は国内取引と違い日本語が通じない、専門用語が多い、手続きが面倒といった面があり、興味はあっても、二の足を踏む企業も多い。しかし、今回の商談は海外に目を向け貿易について学ぶ情熱があれば実績のない会社でも貿易が可能であることを証明したと言える。ただし、商社のルートに乗らない直接貿易はリスクがあるのも事実。特に、中国は取り引き相手が柔軟性に欠ける、発注した商品と到着した商品が違うといったトラブルも実際に起きている。安全を第一に考えるなら、直接貿易は避けた方がいい場合もあるだろう。

お薦めは交易会と県主催のミッション参加

 対中貿易に興味のある方は、まず中国各地で開催される交易会に足を運ぶことから始めてみてはいかがだろうか。お薦めは毎年4月、10月開催の「中国出口商品交易会」(広東省広州市)。日本はもちろん、世界各地からバイヤーが訪れる。また短期間で効率的という面では秋田県が主催するミッションに参加するのもいい方法だろう。
 当事務所としてもできる限りの側面支援を続けていきたい。

《本誌インタビュー》
 畳表の買い付けを終えて帰秋した磯崎氏、庄司氏に今回の直接輸入についての感想を伺いました。

 畳表の現地の加工技術、生産規模は予想以上に進んでおり、品質面では全く国産品と大差がないことをこの目で見て実感してきました。
(庄司氏)

 商社を通さずに、当初目標の品質・価格・数量等を確保できたのは、中央会はじめ滞在中にご支援いただきました塚本氏等のお陰であると深く感謝しております。
 今後とも、こうした県の事務所等を大いに活用しながら、商売に役立てていきたいと思っております。
(磯崎氏)


→目次へ

Copyright 2001 秋田県中小企業団体中央会
URL http://www.chuokai-akita.or.jp/