新春特別対談・21世紀秋田発ものづくりとデザインの夢を語る

 21世紀最初の年を迎え、県内産業界は秋田発のものづくり、商品の高付加価値化を目指して更なる飛躍が期待されております。また、県内デザイン業界も製造業を中心とした産業界との連携で、着実にその実績を伸ばしております。本日は、それぞれの業界の代表の方々から、新春特別対談という形で、新年にあたっての夢、抱負について語っていただきました。

出席者(敬称略)
コーディネーター:
秋田公立美術工芸短期大学 産業デザイン学科長 教授 山本毅
対談者:
株式会社バウハウス 代表取締役 森川恒
株式会社縫工 専務取締役 猿田 由美子
能代の風グループ 代表 (くどう酒店 代表) 工藤信康

デザイン集団が目指すもの

山本 はじめに、県内デザイン業界の現状についてお話いただけますか。

森川 先ずは、「あきたデザインネットワーク」のことについてお話したいと思います。
 デザインネットワークは秋田県内のデザイナーの集まりで、一昨年11月に発足致しました。
 現在、参加しているデザイナーは約250名程で、2ヶ月に一回全体会を開き、いろいろなデザイン分野の方々に集まっていただいております。
 デザイナーを大別しますと「コミュニケーションデザイン」、これはいわゆるグラフィックデザインの分野で全体の7割程ですか、それから「スペースデザイン」が約2割くらい、残りは「プロダクトデザイン」、工業製品・工業デザインで1割くらい。それに流通関係等を含めた構成となっております。
 そもそものきっかけは、今日、デザイン業務の幅が非常に広がり、デザインそのものが、先程お話した3つの分野で錯綜して複雑に重なり合っている現状にあり、これからは、横断的にこれら異業の分野とお互いに連帯を深め、デザイナー自身も自分の領域、思考の幅を広げていく必要があるとの認識から、デザインネットワークを組織しました。

ピカットコートでグッドデザイン賞受賞

山本 次に、縫工さんからは県内アパレル業界の状況と、一昨年グッドデザイン賞を受賞されたピカットコート開発のきっかけなどについてお話いただけますか。

猿田 県内アパレル業界は、下請大量生産の商品がほとんどですが、近い将来、こうした時代は終わりを迎えるのではないかという想いをずっと抱いていました。一昨年、バリアフリー関係での介護機器がいろいろ取り沙汰されていた頃、ここにいらっしゃる山本先生からは「介護を必要とするお年寄より、健常者の方が実際には多い」という提言をいただきまして、何か健常者のための服づくりができないものかという話から入りまして、ピカットコートに辿りついた訳です。
 このピカットコートに関しましても、お年寄りが夜、交通事故に遭う割合が高いことから、車のライトで反射するのを活かして事故防止はできないものかという発想から始まり、秋田公立美術工芸短期大学のご協力をいただき、ライトで光るところはどこなのか、何が着やすいのか、どんな色がよいのか、どういう商品が欲しいのか、というようないろいろなデザインデータを頂戴して、日常の業務と並行して試行錯誤しながら商品開発致しました。

山本 開発後の商品展開は、いかがですか。

猿田 ピカットコートは初め、60歳前後をターゲットにしていたのですが、そのデザインが、たまたま一昨年、グッドデザイン賞をいただきまして、皆さんに発表したときに60歳の方だけではもったいなさ過ぎる、30歳代でも合うんじゃないかという提言もいただきまして、それでは、商品をピカットだけでなくいろいろな商品展開にもっていこうということで、かねてより願望のありました自社ブランドの開発に取り組んだ次第です。
 商品特性である、このピカッと光る部分を強調し、その光りがちょうど蛍の光みたいにポッ、ポッ、ポッと光るものですから、それから当社も小さい光ながら頑張っているよという気持ちも込めて「ほたるブランド」というネーミングをつけてみました。

デザイン・商品構成面で、他との差別化を

山本 もうお一方、お酒の販売で「能代の風」グループ代表の工藤さん、業界の現状についてお話いただけますか。

工藤 以前、お酒は店頭に並べて置くだけで売れる時代がずっと続いてまいりました。お酒は免許制に守られ、小売価格が決められております。その点で、価格については全く悩みはありませんでした。ところが、10年程前から秋田にもディスカウントショップが出現したことにより様相が一変し、お酒は安くなるんだという風潮が徐々に消費者へ浸透していき、目に見えてお客さんは安いところへと走る状況となってきたのです。
 そこで、私どもが考えたのは、デザインと商品構成による差別化です。その両方の特徴を併せ持つプライベートブランドをつくってみようじゃないかということで、有志13名で特別本醸造酒「能代の風」をスタートさせましたが、6年経ってだんだん熱も冷めてきたところ、最近のお客様は高品質なものを求めているという背景もあって、今度は、違ったジャンルのお酒をつくってみようということになりまして、純米酒をターゲットにして誕生したのが「縄文の風」という特別純米酒です。

山本 縄文の風というネーミングですが、発想のきっかけは何だったのですか。

工藤 能代の風から単に名前を変えただけでは、いまの状況はを変えられない。やはり、お酒そのものに、お酒に限らずいろいろなものがそうなんでしょうけど、ストーリー性が欲しいといことでいろいろ探してみました。
 たまたま、能代には杉沢台遺跡という縄文時代の遺跡がありまして、そこの湧水とその湧水を利用した近くの東雲地区で収穫された“あきたこまち”で特別純米酒を造ることを思い立ち、蔵元の杜氏さんを説得して、商品開発にこぎつけました。

デザイン性を重視して、次々と商品展開を

山本 縫工さん、先程デザイナーからのアドバイスでピカットコートに辿りついたとのことですが、開発に際してデザイン面で何か特徴がございましたら、お話いただけますか。

猿田 先程お話した光る素材だけでしたら、どこにでもある訳でして、それにファッション性、さらに高級感をもたせるために、いまのリフレクターというテープを探し当て、それを利用しての商品化に取り組んだところ、昨年6月、ユニバーサルデザイン協会主催の発表会で、肩が凝らない程度にデザインも楽で、見た目もファッション性があると認めていただきまました。このピカットのグッドデザイン性は、その後の適用年代層の拡大や小物への活用など新たな商品開発、販路の開拓に大きく結びついてきていると思います。

デザイナーとの出会いで生まれた「縄文の風」

山本 工藤さん、縄文の風というネーミングは、デザインネットワークとの出会いから生まれたと聞いておりますが、その経緯についてお話いただけますか。

工藤 今回、縄文の風でデザインネットワークの皆さんにお世話になるまで、デザイナーとの交流は全くありませんでした。ラベル・ネーミングについては一般的に、蔵元さんが取引する印刷会社に任される場合が多く、どれも似たようなラベルになりがちです。新しいお酒を開発し、品質・デザイン性を加味した付加価値の高い商品を、秋田から情報発信していきたいという想いから、今回は一つ違う業種の方にお願いしようということになったのですが、どこに頼んだらよいかよくわからなかったので、団体の支援機関ということで中央会さんの方へ相談しましたところ、中央会さんの方でも、たまたまデザインネットワークさんを立ち上げて間もないということもありまして、そのグループを紹介していただいた訳です。

作り手の顔が見えるデザイン

山本 森川さん、その依頼を受けてどのような形で具体化されていかれたのですか。

森川 われわれデザインネットワークに対しての第一号の依頼でありました。そこで、全体会のときに工藤さんの方から、いわゆるストーリー性とか、自分達の商品にかける意気込みについて話していただき、ラベルデザイン、ネーミングをつくるグループを募集した訳です。それには条件がありまして、2人以上のメンバーで、しかも例えばデザイナーとカメラマンとか、デザイナーとコピーライターとか、異業の組み合わせを基本条件としたところ、7組のグループから申し入れがあり、プレゼンテーションした作品全部を工藤さんの能代の風グループに持って行き、13人のメンバー全員で討議していただく手法をとりました。

山本 初めて、デザイングループから提案された内容は、お酒を売る立場から見て、どうでしたか。

工藤 今回提案いただいた作品は、ラベルに縄文時代の土器をあしらい、また酒づくりには欠かせない杜氏さんの顔写真など「つくり手の顔が見える」形のものが出てくるなど、われわれの感覚では想いもつかない、付加価値の高いものを出していただき、これからの販売展開面で大変参考になりました。

山本 デザインする側でも、先程のストーリー性といったものがないと依頼には応えにくいと思いますが、いかがですか。

森川 そのとおりです。われわれがものをつくる場合には、クライアントにその辺を必ず突っ込みます。流通させる商品ですので、他との差別化とか、いろいろなことを基本的に考える訳ですけど、能代さんの場合、事前にグループ内でその商品に対する背景であるとか、売り先であるとか、いろいろな面で十分揉んで、しかもわれわれの問いかけに十分応えられる用意をしてから、相談に見えられました。
 また、われわれの方も、このデザインネットワークというものをマスメディアにアピールしたかったというのが背景にあります。
 さらに、2人以上のスタッフ・グループで仕事をするというのは、一人でやればどうしても自分の世界だけになってしまいがちなところを、お互いが啓発し合いながら、それをまた助長していく、そうしたいわゆる「デザインの橋ができる」ことも今回のネライであった訳です。それが、杜氏の写真ですね。デザイナー1人で想い巡らしてもなかなか出てこない発想に、カメラマンが入り、お互いの話の中で、啓発されて落ち着いたところが今回のラベルであり、そういう意味でよい効果も出てきております。

デザイナーの活用は、商品開発に不可欠

山本 食品にそういう作り手の顔が見えるというのは、新しい時代に合った一つのデザイン、新しい試みと言えますね。そういう意味で、ちょっとしたきっかけで次から次へと新しいイメージを生み出し、ものづくりへと傾注されておられる縫工さん、今後、デザイナーとはどういう関わりをもって自社ブランドの開発を進めていかれるおつもりですか。

猿田 ピカットの着やすさ、高級感はこれからも絶対に崩さないつもりですが、年代層を下げることによって、おもしろさ、着やすさ、こういうものが欲しかったという感じのものを考えていくことがすごく大事になってきました。そういった意味で、客層、ファッション性、機能応用性など、お客様の要望に応えた商品づくりにデザイナーの活用は不可欠であり、こうした面を今後とも重視しながら自社ブランドの開発に取り組んでいきたいと考えております。

デザイナーズバンクを作成し、産業界にPR

山本 今回、売り手、作り手側とデザイナーが相互に協力し合うことで、縄文の風、ほたるブランドという非常によい成功事例が生まれた訳ですが、森川さん、こうした相互連携を深めていくには今後どのようにしていったらよいとお考えですか。

森川 われわれデザインネットワークをつくるきっかけにもなったんですが、デザイナーから産業界に対するアプローチが足りなかったということがあると思うんです。そのために、いま「デザイナーズバンク」として、デザイナーの顔写真とか、代表的な作品を取り入れて、その人の人となりが見えるような形にして、印刷物やインターネットのWeb上で見られるようにして、最大限PRしながら、一緒にやっていこうと思っております。
 また、今まではデザイナー同士の交流を目的として全体会をやってきましたが、今年は、これまでのよいところを取り入れてナイトセッション形式で、デザインネットワークと産業界、ベンチャーの人達も含めて何でも話し合える、交流し合える場づくり、そういう一つの出発点にしようと思っております。

デザイン業界と産業界の連携で
秋田発の新しいものづくりを

山本 工藤さん、これから、デザイナーとどのようなお付き合いをされていかれるお考えですか。

工藤 今回、デザイナーの皆さんの目線でわれわれの商品を見ていただいたことは、今後われわれの新しいものづくり、秋田発のものを販売展開していく上で、大きなバネになったと考えております。
 これからの話ということであれば、例えば県内にはお酒はもちろん、秋田を代表する地場産品はほかにも沢山ありますよね。われわれ酒屋で扱っている味噌・醤油も、その一つだと思います。こういったものを何とかお酒とセットにして販売していけないものか。こうした地域食品とデザインとの融合が、地域の食文化を生み、また育むことになるのではないでしょうか。そういうお手伝いが今後とも、できればよいなぁと思っております。

森川 例えば、いろいろな商品を見る機会があって、その商品に関する情報がぽんと出されたときに、それをどう利用するのか、もっとこういう活用方法があるのではないかといった、情報に隠れた背景を掴まえることによって、すごく自分が対峙できると思うんですよ。いま、工藤さんがお酒と味噌・醤油をセットに販売できないかという提案がありましたよね。それって結構、日常粘り強くある商品なんだけど、普通、それをデザインするかといえばなかなかないんですよ。非常におもしろい商品なんですが、そういう目線にまでいってないんですよね。
 そこをやはりデザイナー1人ひとりが意識を変えて実践していき、その中から、10グループぐらいの実践集団ができ、競い合いながらその行方を追っていく。そして他のメンバーもこれに追随していけば、かなりおもしろい展開になると思っております。そういう夢を描いていて、そこまでいきたいなぁと思っております。

山本 先程の縄文の風での縄文土器のラベルと杜氏の顔写真に見られるように、デザイナーとカメラマンといったそれぞれの得意技が集約されることによって、より大きな、新しい仕事をクリエートしていくようなこと、こうした活動をもっと活発化させていったら、さらに秋田発のものづくりが促進されると思うのですが、いかがでしょうか。

森川 そのとおりですね。一般的に商品といえば、その商品の機能面はどう?という見方をしますが、逆に、デザインの目線というか=「リ・デザイン」、自分達のグループだったら、こういうふうに変えていくという形の提案をお客様から要望されなくとも行なっていく必要があると思います。
 今年は、ナイトセッションで、いまある商品とリ・デザインした場合はこうなるとか、そういう想い、そういう目線で、いま秋田でつくられている製品・商品を一堂に集めて、デザインのフィルターというか、デザイナーの目という見方で、産業界と連携して見直していけば、県産品がより脚光を浴びるような、結構おもしろい仕組みづくりができるのではないかなと思います。
 そういう意味で、われわれデザインネットワークの事務局を含めて支援していただいている中央会さんには、こうした産業界との交流の場づくりについてさらにご支援いただけるものとして大いに期待しております。

山本 私は秋田に来て6年になります。秋田に来てすごく感じることは、地域性とか、ローカル性とか、個性とかが多様化していく時代に、例えば秋田のことなら、秋田でなければわからないことがいっぱいある訳なんですよ。そこに住んで、生活してみて初めてわかることなんですよね。
 秋田で生活する上で必要なもの、そういうところから出てきたニーズはどういうもの?−そういう視点でものを見ていくと、秋田ならではのものが沢山あるんですよね。それが、たまたまうちも欲しかったというものにつながっていく。縫工さんのほたるブランドもそうですし、地域の資源にこだわった縄文の風も秋田の風土から生まれたものだから美味しい訳ですよね。こうした秋田の特徴、文化を大事にしたものづくり、もっとポジティブに活かした商品開発というものが、これからの価値あるもの、存在する意義だと思うんですね。
 新世紀最初の年を迎え、お互いの業界がそれぞれ描かれた夢について、今後お互いのニーズを共有し、さらに連携を強化しながら邁進されますことをお祈り致します。本日は、ありがとうございました。


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