年 頭 所 感

中小企業庁
長官 岩 田 満 泰 

新年明けましておめでとうございます。
 平成12年の新春を迎え、お慶びを申し上げますとともに、私の中小企業政策についての所感の一端を述べさせていただきます。
 昨年の我が国経済を振り返ってみますと、改善の方向に向かっているものの、雇用情勢は依然として厳しく、設備投資の減少が続くなど民間需要の回復力も弱く、景気は厳しい状況をなお脱しておりません。また、中小企業を取り巻く経営環境は依然として厳しいものがあり、景気が上向いている実感をともなっていないのが実状であります。このような状況の下、この1年を公需から民需への円滑なバトンタッチを行い、民需中心の本格的な景気回復の年とするため、中小企業対策を強力に推進してまいる考えであります。
 近年の先進国経済を見ますと、新たな雇用の担い手は中小企業、とりわけ新規の開業であります。その一方で、我が国では、昭和50年代には年間30万社を超えていた開業企業数が、現在では年間14万社まで低下しております。また、開業率が廃業率を下回り、開業率は2.7%と米国等諸外国と比べても低い水準にあります。したがって、中小企業がダイナミズムを取り戻し、日本経済の牽引力となれるかどうかに我が国経済新生の成否はかかっていると考えております。
 そこで、政府といたしましても、先の臨時国会を「中小企業国会」と位置づけ、36年ぶりに中小企業基本法を改正するとともに、創業の促進や中小企業・ベンチャー企業振興のための関係法律の改正等を行いました。
 昭和38年に制定された中小企業基本法は、中小企業を画一的に弱者ととらえ、大企業との格差是正という理念に基づいたものでありました。今日、地域に根ざした小規模企業もあれば、成長分野で飛躍を目指すベンチャー企業もあります。また、未来を指向して創業を志す方々も大勢おられます。そこで、新しい基本法は、創業者やベンチャー企業に対する支援を政策の柱の一つに据える一方、懸命に努力されている中小企業の多様なニーズに対してきめ細かく施策を講じることのできる政策体系を構築しようとするものであります。
 こうした理念を具体化すべく、まず金融対策については、中小企業のニーズの多様化に応じて、制度の創設・改正を行いました。従来、中小企業の資金調達は間接金融が中心でしたが、それでは、貸し渋りや担保主義といった金融機関の貸出姿勢に左右され、また、成長期に必要な億円単位の資金需要に応えられないなどの問題があります。そこで、中小企業にも直接金融の道を開くために、中小企業が発行する私募債に信用保証を付与する制度や担保に乏しい中小企業のワラント債を中小企業金融公庫が引き受ける制度等を創設いたしました。また、設備近代化資金制度も業種・設備の指定を廃止し、小規模企業と創業者に限定した設備資金無利子融資制度・設備リース制度に改めました。
 そして、「中小企業金融安定化特別保証制度」については、多くの中小企業の皆様にご活用いただき、倒産件数も減少するなど大きな効果を上げてまいりました。最近の貸し渋りの状況は昨年に比してある程度改善してきているものの、今なお多数の中小企業が貸し渋りに苦しんでいるなどの現下の金融・経済情勢を勘案し、期限を1年間延長し、保証枠を10兆円追加することといたしました。
 さらに、組合という組織形態の活用による創業・新事業展開・経営革新という観点から、事業の成長段階に応じて多様な組織形態を選択できるように、中小企業組合が解散せずに会社への組織変更を可能とする規定を創設いたしました。そのほか、エンジェル税制の対象企業の拡大、ストックオプションの付与上限の引き上げを行いました。
 こうした取り組みを通じて、現在約14万社である年間の開業企業数を5年後には10万社程度増加させ、100万人規模の雇用創出を実現したい、今後3〜5年の間にユニークなアイディアや技術を持った創造的な中小企業を1万社程度増加させたいと考えております。
 平成12年度においても、中小企業基本法の改正を受けて、政策体系・支援体制の整備を重点的に進め、厳しい経済状況の中で懸命に努力されている中小企業の皆様を支援してまいりたいと考えております。
 具体的には、第一に、中小企業基本法が改正され、中小企業の新しい位置づけに沿った政策体系を構築するにあたって、中小企業を支援する体制の整備に重点的に取り組まなければならないと考えております。
 中小企業がその規模ゆえに企業内にすべての必要な人材、技術、情報等のソフトな経営資源を確保することはできません。したがって、中小企業の多様なニーズに応じて、不足する経営資源を充実・強化するためのソフト支援策を一元的に提供する支援拠点を国、都道府県、地域のレベルで整備していきたいと考えております。
 さらに、それぞれの支援拠点をインターネットで結ぶことによって、地域の中小企業が全国の実務家、企業支援ビジネス、公設の研究機関や大学の研究室と出会い、実践的・実務的な支援を受けることができるようにしたいと考えております。そうすることで、中小企業同士の連携や産学官の連携が活発になり、新たな事業が生まれてくることを期待しております。また、中小企業の技術開発の重要性は高まっており、引き続き中小企業技術革新制度(SBIR)の普及・拡大に努めるとともに、我が国製造業を支える、ものづくり技術の維持・発展を図る必要があると考えております。
 第二に、企業の事業再構築が進む中で、関連する下請企業等に対し、受注量の減少、受注単価の引き下げ等の影響が及んだ場合に、下請取引あっせん、金融対策、経営革新の支援等の施策を着実に講じ、中小企業の経営安定に取り組まなければならないと考えております。
 第三に、本年6月1日から大規模小売店舗立地法が施行されますが、商店街等商業集積をいかに活性化していくかは、全国には1万8千もの商店街があり、地域振興という面からも重要な課題であると考えております。商店街を活性化するためには、商店街の店主の方々はもちろん、周辺に住む住民の方々を巻き込んで魅力ある街づくりを考えることが重要であります。市町村やタウンマネージメント機関による地域の実状に合った街づくり、商店街づくりに対する支援を強化してまいりたいと考えております。
 第四に、昨年から社会問題化している商工ローンの問題については、中小企業庁といたしましても関係省庁と連携しつつ適切な対応を図ってまいりたいと考えております。また、来年4月のベイオフ解禁に向けて、事業活動に与える影響を考慮して、決済性預金の保護等セーフティネットの整備を行う必要があると考えております。
 我が国経済の新生に向けた道筋において、中小企業の皆様の積極的な取り組みが成功の鍵を握っていることは間違いありません。しかし、今日、変化のスピードはますます加速しております。そうした変化に対応して経営革新に取り組んでいかなければ、時代の潮流に取り残されかねません。自らに対して問いかけ、常に「革新」の意識を持ち続けていくことが大切であり、私どもといたしましても、そうした自助努力に対して積極的に支援していく考えであります。
 最後に、本年が中小企業の皆様にとって飛躍の年となりますことをお祈り申し上げ、私の年頭の挨拶とさせていただきます。

平成12年 元旦


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