2007年版 中小企業白書のポイント 最終回

 3部構成となっている2007年版中小企業白書の概要について、本誌7月号、8月号で第1部、第2部を紹介して参りました。今月号では、最終の第3部を紹介します。この中では、景況の回復が遅れている中小企業が企業間の取引関係や雇用において、大企業と比較してどのような立場に置かれているかを記述しています。
 なお、詳細は次の中小企業庁のホームページをご覧ください。(http://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/index.html)

<第3部>経済構造の変化にチャレンジする中小企業

I 変容する企業間取引構造
 製造業14万社のデータを用いて、系列取引が主と考えられていた企業間の取引構造における「メッシュ化」度合いを把握し、「メッシュ化」と取引関係の緊密化が両立する条件を分析している。
○近年、企業間の取引構造は、長期的・固定的なものから、多面的なものへと変化しつつあると言われる(いわゆる取引関係の「メッシュ化」)。
企業間取引関係の概念図

1 製造業におけるメッシュ化の現状
○製造業全体の取引構造を概観すると、従来の「系列取引」の概念を外れた独立型企業が多く存在するとともに、垂直取引以外にも様々な取引関係が存在していることが分かる。
製造業全体の取引構造
(注)1. 矢印及び吹き出しの値は、それぞれの層における取引数を示す。
 2. a)赤い矢印は垂直取引(上の層に対する納入関係)、b)青い矢印は垂直取引以外の【上場企業】〜6次企業間の取引関係、c)黄色い矢印は独立型企業(上場企業に直接もしくは間接的に販売を行っていない企業)への納入関係を示す。
 3. 本データは、製造業全企業を網羅していない為、3〜6次取引企業数が実際よりも少ない可能性がある。

2 企業間取引関係の変化
○過去10年間で、企業の仕入先、販売先数は増加傾向。一方で、大口取引先との取引額シェアは減少。取引関係の「メッシュ化」が進展している。
○仕入先、販売先数増加の背景にあるメリットとしては、売上高の増大、必要となる仕入の確保、リスク分散、有利な取引条件を提示する企業の選別などがある。
10年前と比較した販売先・仕入先企業数の動向
資料:(株)富士通総研「企業間取引関係の変化に関する実態調査」(2006年12月)

3 「メッシュ化」と「緊密化」を両立させる企業の特徴
○販売先の増加にもかかわらず、各販売先との情報のやりとりを緊密化している企業は、売上高も堅調に推移している。
○「メッシュ化」と「緊密化」を両立させる企業の特徴は、①安定した品質を求められる製品を製造、②技術交流に積極的、の2点。
自社取り扱い製品について販売先が最も重視する点
資料:(株)富士通総研「企業間取引関係の変化に関する実態調査」(2006年12月)

II 企業間の取引条件が中小企業に及ぼす影響
 取引構造の「メッシュ化」が進展する中で、販売側の中小企業が、価格決定、知的財産の保持などの面で有利な立場を確保するための条件を分析。

1 販売価格の決定
○販売価格を自社は決定するケースが約1割。話し合いで決めるケースが約6割。主要販売先が決定するケースが約2割。
○販売価格を主要販売先と話し合いで決定している中小企業は、有利に価格設定を行っている。
○販売先を多様化することで、価格交渉力を高められる。
販売価格の変更の経験
資料:みずほ総合研究所(株)「企業間取引慣行実態調査」(2006年11月)
(注)主要販売先とは、直近の決算で最も販売額の多い販売先を指す。
販売価格の決定方法(主要販売先への依存度別)
(注)1.主要販売先とは、直近の決算で最も販売額の多い販売先を指す。
2.主要販売先への依存度とは、主要販売先への売上高が前売上高に占める割合を指す。

2 取引条件の明確化・書面化
○取引内容を書面で明確化することで、取引内容変更のリスクを小さくできる。
○基本的な項目については、取引条件が書面で明確化されている。
○情報管理費や環境対策費の負担配分等の条件は、あまり取り決めがされていない。
費用負担等にかかる主要販売先との取り決めの有無

資料:(株)三菱総合研究所「地域における中小企業等と公共的サービスに係るアンケート調査」(2006年12月)

3 生産後の取引条件
○型(金型・木型等)を使用している中小製造業は、全体の約半分である。
○型の保管期間は、平均9.6年と非常に長く、多くの中小企業が、型の保管費用を自社で負担している。
○型に関する取引条件を改善するためには、条件を書面で明確化することが必要。

4 企業間信用取引の動向
○近年、企業間信用割合が低下傾向。原因は、支払手形割合の低下。手形を用いなくなる理由として、小規模企業は信用力向上を、中規模企業では、事務負担削減を挙げている。
○規模が小さい企業の方が、支払サイト短縮による影響が大きい。
企業間信用割合の推移

資料:財務省「法人企業統計年報」再編加工
(注)1.企業間信用割合=(支払手形+買掛金)/総資産×100
2.資本金3億円以下の製造業について集計した。

5 研究開発における連携
○研究開発を行っている企業の7〜8割は他と連携している。
○共同研究開発の連携先は、規模にかかわらず主要販売先が多い。
○取引関係のない企業との連携や産学連携は、特許を取得しやすい。
○取引関係のない企業との連携は、無断特許出願をされるリスクも高い。
共同研究開発の連携先と特許取得

資料:みずほ総合研究所(株)「企業間取引慣行実態調査」(2006年11月)
(注)1.他と連携して研究開発を行っている中小企業を対象に集計した。
2.主要販売先とは、直近の決算で最も販売額の多い販売先を指す。
3.研究開発の成果として、特許取得の成果があった企業となかった企業の割合を集計した。

III 人的資本の蓄積に向けた中小企業の取り組み
 雇用環境が好転する中で、中小企業の経営を支える人材の不足状況とその確保に向けた取り組みを分析。

1 90年代以降の雇用環境
○雇用環境が改善する中で、規模が小さい企業ほど、求人を増やしているが、雇用者数は増えていない。
○非正規雇用者の増加は、02年以降、大企業で 顕著となっている。
○中小企業では、個々の企業において正規雇用を非正規雇用で代替しているわけではない。
非正規雇用比率規模別推移
資料:総務省「労働力調査特別調査(2001まで)/労働力調査詳細調査(2002以後)」
(注)1.労働力調査特別調査データは各年2月調査を用いた。労働力調査データは、各年1月〜3月の平均値を用いた。
2.非正規雇用者=パート・アルバイト+派遣、契約・嘱託社員、その他
3.非正規雇用者割合=非正規雇用者/役員を除く雇用者数

2 中小企業における人材構成
○人材構成において、最も必要なプロデューサー型人材は、他の人材に比して少ない。
○最近10年間で、正規プロデューサー型人材は減少し、非正規スタッフ型は増加。
○業況感の良い企業は、正規雇用プロデューサー型人材が増加。
企業における人材構成概念図


3 中小企業を支えるキーパーソン
○キーパーソンは、コアとなる業務を担う、他では代替のきかない人物で、代表者以外に1社で平均3人いるが、イノベーションを生み出す人材が不足している。
○キーパーソンは、中途採用が多く、入社時には選別されていない。
中小企業のキーパーソンの採用経路

資料:中小企業庁「雇用環境および人材の育成・採用に関する実態調査」(2006年12月)
(注)1.中小企業のみを集計した。
2.数字は、全体を100とした場合の割合。

4 人材の確保・育成に向けた取り組み
○キーパーソンのキャリアでは、自己啓発、多様な職務経験が重要。だが、経営者と認識にギャップがある。
○人材育成は、主にOJT。ジョブローテーションや自己啓発への支援は少ない。
○キーパーソンは、仕事のやりがいや自己の能力発揮を求める。
正規雇用者に対する人材育成の実施状況

資料:中小企業庁「雇用環境および人材の育成・採用に関する実態調査」(2006年12月)
(注)それぞれの育成項目について「力を入れて実施している」と回答のあった企業の割合を集計した。



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