政治・経済 〜情報のウラを読む〜



講師 読売テレビ 報道局
解説委員 辛坊治郎 氏

 本会では毎年、各界の第一戦で活躍している講師をお招きして、「経営者トップセミナー」として講演会を開催しておりますが、去る1月22日(木)、秋田市の「ホテルメトロポリタン秋田」において日本テレビ 「ズームイン!!SUPER」のニュース解説などでお馴染みの辛坊治郎氏をお迎えして新春経営特別講演会を開催しました。

〜読売テレビから日本テレビへ〜

 今日は、たまさかマスメディアというところで20何年間ご飯を食べておりますので、恐らくたいていの方よりはこの方面に関しては詳しいだろうと思いますのでその当たりを中心に、限られた時間をやらしていただこうと思っています。

 良く聞かれるのであります。「あなた読売テレビの解説委員という肩書きだけれども、読売テレビというのは一体何なんだ、日本テレビじゃないのか、或いは読売新聞じゃないのか。」と良く聞かれるのであります。ちょっとややこしい話なんでありますが、アメリカが太平洋戦争後日本を民主化するためと称していろんな法律制度を持ち込みました。一番の根幹は憲法でありましょうが、そういった制度の中の一つにマスコミ集中排除の原則というのを持ち込みました。マスコミというところは影響力が大きいから一つの資本、お金を持っているところが広域を支配してはいけませんよという制度でございまして、この制度に基づいて日本テレビというのは関東でしか放送したらいけません、秋田放送は秋田でしか放送したらいけません、大阪読売テレビは大阪でしか放送したらいけません。という風にそれぞれの日本全国135の民間放送局は完全な独立企業体でなくてはいけない、お互いに20%以上の株式を持ちあってはいけないという法律制度を作りまして、今でもそれは生きております。ですから完全な読売テレビと日本テレビ、秋田放送は別会社でありますから、それぞれの間で転勤や出向というのはないんであります。ですから読売テレビに入りますと一生定年まで大阪にいるというのが普通なんであります。

「じゃ、なんでお前東京へ行って仕事をしているんだ。」良く聞かれるのでありますが、私が今東京へ行って働いている立場は、一言で申し上げてボランテイアという立場でございます。どういうことかと言いますと、私98年までアメリカにおりまして日本に帰って参りました。それから読売テレビでいわゆる管理職業務というのをやっておりまして、自分で言うのもなんなんでございますが、まあ一言で言うと実に順調に出世街道を爆走しておったんでございます。このままいくと後2〜3年で社長も夢ではないんじゃないかと思いながら働いておりましたら、その社長から2000年の夏に呼び出しをくらいまして、「辛坊君、話というのは他でもない。今ズームイン朝という番組があるやろ、日本テレビはこの秋からあの番組を朝の5時30分から8時30分までの3時間番組にしたいと言うてんねん、ついてはお前東京へ行って番組の中でニュースの解説でもやって来い。日本テレビは金は出さんと言っている、ボランティアだ。」と言われ、それ以来毎朝月曜から金曜まで3時30分に日本テレビに入っております。毎朝3時に起きないと間に合わない。今朝も3時から起きて働いております。

〜情報の正しい判断〜

 中途半端な天気の日に空模様を見上げて、さて、傘がいるかなあと考えます。傘を持って出る、持って出ないという一つの判断を下す。まあ、人生にしろ経営にしろ、皆さんのように世の中分かった方にですね、人生とはと言うだけでもう顔が火照るのでありますが、まあ瞬間瞬間の連続、小さな判断の積み重ねの集大成であります。傘を持って出る出ないと言う判断が間違ってもどうってことはありませんが、判断を間違えますと帰りがけに雨に降られる雪に降られる、或いは邪魔な傘を持ち歩いて傘をこのホテルに忘れて行くという結果が生じます。まあそんな判断が間違ってもどうってことはありませんが、そういう小さな判断ミスでも積もり積もっていきますと、ふと気が付くと取り返しが付かないことになってるというのがよくある話であります。

 人生の中では、或いは、経営においては、どうしても間違えてはいけないという判断の局面がございます。さあ、この新しい事業に進出しようか、ここに工場を建てようかどうしようか、ここに家を買おうかどうしようか、この人と結婚しようかどうしようか、いろんな重大な判断の局面がありますが、こういう大きな判断の局面で間違うと、なかなか取り返すのに骨が折れます。

 皆さんが今何か大きな判断を迫られているとして、目の前にある、さてその判断材料、情報というやつはどのくらい正しいでしょうか。いろんなところから毎日皆さんのお手元には様々な情報が届いて参ります。マスメディアから流される情報もあれば、隣近所の口コミもあれば、インターネットの情報もあれば、或いは会社の部下から上がってくるような情報もあります。いろんなルートを辿って、皆さんのところに情報が集まってくる、それをもとに皆さんは判断を下す。さて、その目の前にある情報がどのくらい確かかというのをどのくらい強く皆さんは認識していらっしゃるでしょうか。

 世の中には、事実なんだけれども真実ではないという情報は至るところにある。嘘じゃないけれども本当じゃないという情報も、これまたいくらでもあるのであります。
 情報はいろんなルートで皆さんのところへ届いてますが、去年の開票速報番組のように事実なんだけれども真実とは「おい、ちょっとちゃうで」ということはいくらでもある。それは、皆さんのところに個人として情報を届けてくる人間でも同じことは言えるわけです。性の悪いメディアに至っては、こんなところの事実をあたかもここの事実だと思わせようとしているってことはいくらでもある。ここの事実とここの事実と両方見ていないと、その向こうが見えてこない。メディアの情報は気をつけて下さいね。溢れている様々な事実の向こうにある真実をどうぞ見抜いて、正しい判断をして下さい。

〜これからの日本経済〜

 日本経済がこれからどうなっていくのか。世界的な流れの中で今確実に日本の景気は上向いているのは、これは間違いないと断言することができます。
 確かになかなか地方にまでその景気の良さが伝ってくるのには、タイムラグがありますから時間はかかるでしょうけれども、少なくとも日本全体で見た場合には、今年少なくとも夏過ぎまでは確実に景気は回復に向かいます。なぜかというと、今日本の景気が回復している理由は二つあります。

 一つはアメリカの景気が急上昇で回復しているからであります。アメリカの景気が何で回復しているんだというと、これまた二つの理由しかないわけであります。アメリカの景気がどのくらい回復しているかというとですね、ものすごいんですよ。去年の第3四半期の経済成長率が8%を突破しておりまして、早い話がもう発展途上国並みの経済成長率なんであります。

 何でこんなに急にアメリカの景気が良くなったのかというと、減税と、徹底した低金利。減税は日本よりずっと効くんです。アメリカが減税やる時どうするかというと、国民全員に小切手ばらまくんですね。減税分、現金で返すわけであります。昔、日本ではほんの少しだけ、これはあの時は公明党主導だったんでありますが、地域商品券をばらまいたことがありますが、あれをもっと大規模に全米でやるわけです。国民の手元には実際使える現金が入るということが一つあります。

 もう一つは徹底した低金利政策。これは日本が5年前にやり損なって日本の景気が悪化していってデフレが進んだという教訓に基づいて、ブッシュ大統領は徹底した低金利政策を敷きました。アメリカ人という人たちは変わってるんです。

 日本の場合、低金利政策になりました、一般の人はどうするかというと、銀行ローンを抱えている人たちは当然のことながら借り替えを行います。例えば、「1,000万円の銀行ローン抱えています。毎月5万円払ってます。」と言う人たちが、銀行ローンが下がってきた、低金利になりましたというと当然銀行ローンの借り替えを行う。借り替えを行った結果、日本では何が起きるかというと、1,000万円の元本は変わらないけれども低金利になった分、月々の返済額が4万円に下がりました。良かったね、負担が軽くなってというのが、日本で低金利のときに起きる現象なんでありますが、アメリカ人は違うんです。もともと銀行ローンの仕組み自体がちょっと違うという理由もあるんですが、アメリカでここ2年ほどものすごい低金利になりました。何が起きたかというと、月々の支払いは変えずに銀行ローンの借り替えを行います。つまり、今まで1,000万円借りていて、月々5万円払ってました。金利が下がりました。月々の返済額5万円は変えない。何をするかというと借りる元本を増やすんです。増えた元本は現金でその人の懐に入る。英語でキャッシュアウトという言葉があるんですが、低金利になった瞬間にアメリカの企業や個人がこのキャッシュアウトで現金数百万円みんなこの1年ほど手元に残った。アメリカ人は何をしたかというと、アメリカ人が大きな買い物というと二つしかありません。日本でもそうですが、一つは家、もう一つは車。

 去年、アメリカで住宅の着工数が異常な伸び方をしました。それと同時に家のある人は、車を買う、車がバカ売れしました。日本で去年の後半から景気が急回復しているのは、この自動車産業を中心にアメリカの輸出が大変な勢いで伸びたから。

〜アメリカの景気〜

 今、ブッシュ大統領はどんなことがあっても11月2日の大統領選挙まではアメリカの景気は悪化させないと、ありとあらゆる手を使います。どんな手使うかというと、先週発表したのには仰天しましたね。アメリカがついに火星に人間送ると言い出しました。当然のことながら大統領選挙向けの愛国心を高める一環だと言われておりますが、実利的な面で言うとアメリカの最大の産業は、航空宇宙産業とハリウッドの映画産業で、この2本柱なんでありますが、この航空宇宙産業が今後20年間、これは悪くならないんじゃないかという心理的な安心感、11月2日までは何がなんでもアメリカの景気は悪くならないようにいたしますということです。

 恐らくそれに引きずられる形で、11月までは日本の景気もまあまあ何とかなるでしょう。その後どうなるんだというと、ありとあらゆる経済指標が新聞に踊っておりまして、何を見たらいいんだか分からない。しかし、1カ所だけ見ておけば、その先どうなるか分かります。

 今のアメリカの好景気はある種のバブルです。これが弾けるか弾けないか、何を見ていたら分かるかというとただ一点、難しく言うとアメリカの雇用統計。もっと簡単に言うと失業率。これが景気が良いのに今下がらないんです。ここへきてほんのちょっとだけ下がりましたが、これがもしこのまま失業率が下がらないまま夏を超えるということになると、このバブルは必ず大統領戦の前後に弾け飛んでしまいます。ところが、夏ぐらいまでに緩やかにでもこのアメリカの失業率が下がり始めたら、バブル景気が今度は実際に労働者が自分の働いたお金で物が買えるようになって、置き変わっていきます。このアメリカの失業率の一点だけ、とりあえず皆さん注目しておいて下さい。そうするとそのあとのアメリカ経済、それから日本経済の行方が読めてくる。

〜中国市場への進出〜

 先程、日本の景気がようやくここへきて、去年の後半からある程度見える形で回復してきたのには二つあると言いました。一つはアメリカの経済、もう一つは中国の経済。皆さんの中には、恐らくほとんどの方は中国は驚異だと思ってらっしゃる方が大半だと思います。中国というのはとんでもないぞ、異常に安い人件費と異常に操作されている元(げん)。日本の企業を壊滅状態にして、あんな国が隣にあるから日本経済はこんなになっちゃったんだというイメージをほとんどの方が持ってらっしゃると思いますが、こう思っている限りは絶対にその人は残念ながら成功することはできない。この3年ぐらいで、中国発のデフレに慣れて発想の転換をすることで、大儲けをしている人があちこちに現れ始めました。去年、富山に寄ったついでに、海岸べりに取材に行きました。ある大手の昆布会社の社長さんと話した。その方が言うんです。「辛坊さん7〜8年前にね、日本で昆布が不良だったんですわ、それで私ね、中国には昆布あるんじゃないかと思ってね、満州の海に潜った。あったね、いい昆布がようけ中国の沿岸に。それでね、私中国で昆布を養殖することを思いついた。」、ここまでは普通の経営者の方です。ところが、この方が違ったのは、中国で昆布は栽培するけれども、自分が中国で作った昆布は日本には1本も持ってこない。それから5年間、今、中国の地方都市でも日本食ブーム、昆布が売れてようやく中国産の昆布、中国人に売りつけて黒字が出るようになったんです。

 秋田も杉が大変有名でありますが、宮崎も杉が大変有名でした。ところが戦後日本で一番だめになった産業は林業。宮崎県は考えた。何とか方法はないか。中国に売ったらどうやろか。はじめはアホって言われたんです。「そんな高い日本産の杉を中国人が買うかいや」と言うてたら、今上海あたりに、にょきにょきできる新しいビルの中で、なぜかあれだけ反日感情が強いと言われている中国人の間で、金持ちはマンションの一室を日本間にするというのがブームなんですね。それで、宮崎県は地元産の杉を高級なやつだけを選りすぐって、日本間のユニットを作って、それも接着剤使わない本当に高級なユニット、これを1個マンションの中にポコンと入れるだけで、相当な売り上げになるという。日本産の杉が今宮崎県からどんどんと中国の東海岸に輸出が始まっている。

 今、日本の最大の輸出先というのがまだまだアメリカで、総輸出額の28%がアメリカです。ところが、おととし第2位が中国になりまして、今中国向けの輸出が香港と合わせて16%にまでなっています。28%がアメリカ向けで、16%が中国向け、それ以下、3位以下は全部1桁ですから、実はこの中国向けの輸出に今乗っかることのできた人たちというのが、去年の後半から相当な勢いで浮上を始めている。すぐ隣にあるのが驚異だ、貧乏神だと思っている限りはいつまでたってもだめです。すぐ隣にもしかすると、これは宝の山があるんじゃないかというぐらいの、今発想の転換が必要なんだろうなと思います。で、日本は幸いなのは非常に距離が近い。アメリカは距離が離れている上に、日本に比べて5年遅れて今やっと中国発のデフレが入り込んでいって、これから危なくなるぞという時期にさしかかっている。

〜情報のウラを読む〜

 今、大切な物事の判断に必要な情報は全部皆さんのところに届く時代です。今までは裏の情報をどう掴むかという時代でした。今、大切な情報は全部見える形で皆さんのところに届いております。後は、それを皆さんがどう読み取るか、感性・気力を持っているか、或いはちょっとしたテクニックを持っているかということだと思います。じゃ、そのテクニックって何だと言うと、その情報が皆さんところに届くまでのいきさつをイメージする、どういうルートでこの情報はきたんだ。足利銀行に公的資金が投入されるというのを発表したのは、ダウジョーンズ。ほかの情報筋でない。ダウジョーンズというのはどういう会社かということを考えたら、ここの情報はまあ恐らく日本の金融のあそことつながっているから、かなり確度が高いだろうという判断ができる。情報は皆さんのところに届くまでを是非イメージして下さい。よく聞かれます。朝から晩までテレビは本当にくだらないことをずっと垂れ流しているけれども、一体あのテレビの中身は誰が考えているんだ。よく聞かれるのであります。テレビの中身を決めているのは、実は放送局の人間ではないのであります。テレビの中身を決めているのは、実は皆さん、言い方を変えれば視聴者、もっと言い方を変えれば視聴率というやつでほとんど決まっております。

 どんな商売でも、10年に1人ぐらい商売の天才というのが現れます。どうしてその人は商売に成功するのかというと、商売というのは、法律で決まっているわけでも、道徳的に問題があるわけでもないけれども、こうするもんだという慣習、慣例というのはどこの業界でもあります。成功する人というのは、そういう慣習にどっぷりと浸かっている人に多い。本当にこれは守らなきゃいけないものなのかと疑問を差し挟む。で、その慣習、常識の壁を飛び越えるとその向こうに一人勝ちが待っている。皆さんの周りにある常識をどうぞもう一遍見直して下さい。

 いっぱいある要素の中で一番気をつけなきゃいけないのが、皆さんのところに情報を運んで来る人間やメディアが一体どういう考え方の持ち主なのか。それが見えているケースではそんなには害毒は流しません。皆さんのところに溢れるように毎日、いろんなところから情報が届いておりますが、常にその情報はどういう思惑の上に立って、皆さんのところに届いているんだろうということをほんの少し意識をして下さい。それが重大な間違いをしない最も大きなキーになると思います。マスメディアからの情報でも、注意していただきたいのはいつも同じ情報源ばっかりに接しているのは、非常にまずい。皆さんが例えば自分の家では、読売新聞をとっているという方は、毎朝同じ新聞ばかり読んでいるんじゃなくて、週1回ぐらいは、自分の嫌いなメディアも読んでみる。テレビも同じです。毎朝同じものばかり見てるというのは、大変に危険であります。ここにある事実とこっちにある事実との両方が見えてきて、初めて全体像が浮かび上がる。

 今年の上半期、なかなか皆さんの実感が出るまでには時間がかかると思いますが、恐らく確実にほんの少しずつ灯りが見えてくるだろうと思います。
(文責 中央会)


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