2003年版 中小企業白書のポイント〈その2〉


創業、退出、再生・再起が容易な経済社会の構築
1 我が国の開業の最新時点(2001年)での動向とその背景にある問題

○我が国開業率は2001年総務省「事業所・企業 統計」で見ても依然、低迷。
 業種別でみると、IT関連といった先進的分野のみならず、介護関連、リサイクル関連といった生活密着型・地域密着型分野でも開業率が高くなっている。

第3-1図 開廃業率の推移(非一次産業、年平均)
〜1980年代以降、低下する開業率〜
資料:総務省「事業所・企業統計調査」

2 我が国の廃業の動向

○近年、自営業者数は大きく減少。経営者の約3割は自らの代で廃業を考えているが、業績不振の他、承継する人材がいないことも理由の一つ

第3-2図 事業継続意思と事業継続を希望しない理由
〜約3割の経営者が自分の代での廃業を考えており、その理由として業績不振が多数を占める〜
資料:(財)中小企業総合研究機構「事業承継に関する実態調査」(2002年)

○中小企業の経営者は、企業を「自分と一心同体」と考える傾向にあると言われるが、実際には事業売却・事業譲渡やそれの受け入れを考える経営者が相当数存在。事業譲渡等の円滑化策は、企業の再生に寄与。

第3-3図 他社への事業売却や譲渡への関心
〜他社への事業売却や譲渡への関心があるとする経営者が4分の1存在〜
資料:(財)中小企業総合研究機構「事業承継に関する実態調査」(2002年)

第3-4図 事業譲渡引受意思の有無について
〜他社の事業を条件によっては引き受けても良いとする経営者が約半数にのぼる〜
資料:(財)中小企業総合研究機構「事業承継に関する実態調査」(2002年)

3 倒産と再起の実態(倒産企業経営者1,500人アンケートから)

○倒産企業経営者の約43%が破産しているが、そのうち約14%は再起業を実現

第3-5図 倒産企業経営者が個人の債務を整理するために行ったこと
〜4割を超える経営者が破産〜
資料:中小企業庁調べ

第3-6図 破産者の再起業状況
〜倒産企業経営者で個人破産をした者のうち全体の13.7 %が再起業を実現している〜
資料:中小企業庁調べ
(注)個人破産したと回答した倒産企業経営者を対象に累計

○倒産企業経営者の再起業の資金調達は、通常の創業時に比べても、親族・友人・知人に依存。この分野での制度的金融の充実が今後の課題

第3-7図 創業時と再起業時の資金調達方法
〜初めての創業に比べても、再起業時は私的ネットワークへの依存が強まる〜
資料:(社)中小企業研究所「事業再挑戦に関する実態調査」(2002年)
   中小企業庁「創業環境に関する実態調査」(2001年12月)
(注)複数回答のため、合計は100を超える。

財務だけでは測れない企業の質を見る金融
○中小企業から見た場合、借入資金を円滑に確保するために重要なのは、(1)積極的な企業情報の公開、(2)長期継続的取引などによる財務に現れない企業の情報が銀行に伝わる関係の醸成

第4-1図 貸してもらえなかった企業の割合(資料自主提出の有無別)
〜自主的に資料を提出している企業は貸してもらいやすい〜
資料:中小企業庁「金融環境実態調査」(2002年11月)

○銀行は中小企業向け融資において財務や保全などの外形的基準を重視し、事業上の強み弱み、成長性等を見ることに消極的。それぞれの視点で中小企業の財務に現れない部分を見逃さない「目利き」としての能力の強化が、多様な中小企業に対応した資金供給の円滑化に必要

第4-2図 中小企業向け貸出しの際に特に重視する点
〜財務や信用保証協会保証を重視する銀行が多い〜
資料:中小企業庁調べ

○中小企業庁としても、中小企業の資金調達の多様化に取り組んでおり、平成13年12月より売掛債権担保融資保証制度を実施している。また、平成15年2月から、政府系金融機関を活用した売掛債権の「証券化」への支援を行っており、こうした新しい資金調達手段の活用も重要

第4-3図 売掛債権担保融資保証制度の概要

事業連携による経営革新
○グローバル経済の進展下、「下請」取引といった企業間の垂直連携のメリットは仕事量の安定から取引のリスクがないこと等へと変化

第5-1図 下請取引におけるメリット(製造業、中小企業)
〜メリットの捉え方に変化の兆しが見られる〜
資料:中小企業庁「わが国製造業分業構造実態調査(中小企業)」(1996年11月)
   中小企業庁「中小企業連携活動実態調査」(2002年11月)

○このような環境変化の中、受注側の中小企業は高付加価値製品開発、製品のコストダウンなどの取組を重視しており、こうした対策から高い効果が得られている。

第5-2図 今後強化したいと考えていること
〜コストダウンに続き、製品やサービスの開発を重視〜
資料:(財)商工総合研究所・商工組合中央金庫「第6回中小機械・金属工業の構造変化に関する実態調査」(2001年)再編加工
(注)複数回答のため、合計は100を超える。

資料:(財)流通経済研究所「事業者間の役務(サービス)取引に関する実態調査」(2002年)再編加工
(注)複数回答のため、合計は100を超える。

○企業間の横の連携ともいえる事業連携活動には多様な目的があるが、共同仕入や共同研究開発は企業のパフォーマンスを向上

第5-3図 取組内容別に見た取り組む際の目的(製造、卸、小売業・中小企業)
〜同じ取組でも、その目的は多種多様〜
資料:中小企業庁「中小企業連携活動実態調査」(2002年11月)
(注)複数回答のため、合計は100を超える。

第5-4図 事業連携活動の効果(製造、卸、小売業・中小企業)
〜事業連携活動は企業のパフォーマンスを向上させる〜
資料:中小企業庁「中小企業連携活動実態調査」(2002年11月)
(注)売上高増加企業とは、1997年度〜2001年度における売上高の伸びがプラスの企業、営業利益率改善企業とは、同期間における売上高営業利益率が改善(2001年度で赤字の企業でもマイナス幅が縮小していれば改善に含む)している企業を指す。

○産学連携は、知識の吸収や新しい技術の確立などの点で効果が大きい

第5-5図 産学連携に取り組んだことによる効果(製造業・中小企業)
〜製品の商業化よりも、知識の吸収という点で産学連携の効果は大きい〜
資料:中小企業庁「経営戦略に関する実態調査」(2002年11月)
(注)主業種が製造業に属する中小企業のうち、大学等との産学官連携活動に取り組んだことのある企業について集計した。

○規模別に見ると、規模の小さい企業の方が、産学連携の効果がより出やすいものの取組は遅れている。こうした現象を解消するため、TLO等のスタッフの強化等が必要(技術移転等の専門人材の充実等)

第5-6図 産学連携に取り組む企業と成果を上げている企業の属性の違い(製造業・中小企業)
〜成果を上げる企業の方が取り組みにくい状況にある〜
資料:経済産業省「企業活動基本調査」(1998年)再編加工、経済産業省・中小企業庁「商工業実態基本調査」(1998年)再編加工、中小企業庁「経営戦略に関する実態調査」(2002年11月)

第5-7図 中小企業がTLO を利用していない理由(製造業・中小企業)
〜TLO に関する情報の不足が最大の理由〜
資料:中小企業庁「経営戦略に関する実態調査」(2002年11月)
(注)1. 回答のあった企業のうち、主業種が製造業である中小企業についてのみ集計した。
   2. 複数回答ため、合計は100を超える


第5-8図 TLO の抱える問題
〜人材面での問題が最も大きく、企業との繋がりの拡充も求められる〜
資料:(社)三菱総合研究所「中小企業の経営戦略と産学連携に関する調査」(2002年)
(注)24の承認TLOからの回答を実数で示している。

○地方中小都市型の商店街では、空き店舗優遇施策活用も新規出店の大きな理由

第5-9図 新規参入者の新規出店理由
〜地方中小都市型商店街では、空き店舗優遇施策の存在も大きな要因〜
資料:(財)商工総合研究所「商店街店舗の新陳代謝の実態についての調査報告書」(2002年)
(注)1. 地方中小都市とは、人口20万人未満の都市を指す。
   2. 複数回答ため、合計は100を超える。

○内部資源活用型と事業環境整備型の取組を併せて実施することが商店街の新陳代謝を促進。

第5-10図  商店街の実施事業別の新規参入店舗数
〜内部資源活用型と事業環境整備型の取組が商店街を活性化〜
資料:(財)商工総合研究所「商店街店舗の新陳代謝の実態についての調査」(2002年)再編加工
(注)1. 数値は、商店街の過去5年間における新規参入店舗数を100店舗当たりの数値に換算し、実施事業別の平均を算出したもの。
   2. 複数回答ため、例えば「外部資源呼び込み型を実施」した者が内部資源活用型を実施しているか否か等は表していない。

まとめ−再生と「企業化社会」への道

 元来、ダイナミズムに富む存在である中小企業はわずかの期間で急変身を遂げる力を持っている。
 しかしながら、それはすべての中小企業が自然に成し遂げることができるものではない。本業における地道な経営努力を行うことが、生き残り、成長する道なのである。そしてこうした中小企業が多数、活躍する経済−「企業家社会」が日本経済再生につながる。
 一方で、もちろん「企業家社会」の主役である「まちの企業家」の仕事には常に多くの「重い」決断に迫られる局面が存在する。中小企業は常に一人で会社の存亡に係る重大な決断をしなければならない。
 このように重い決断に耐え、新技術を常に吸収しなければならない中小企業者こそが日本経済再生の真の担い手なのである。


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