新春経営特別講演会
「どうなる日本? どうする日本!」
 〜迷走する国家・ニッポンの行方〜
 本会では毎年、各界の第一戦で活躍している講師をお招きし、経営者トップセミナーを開催しております。
 今年度は、去る1月15日(水)秋田市においてフジテレビ「報道2001」キャスター黒岩祐治氏をお迎えし、盛大に開催しました。

講師:フジテレビ「報道2001」
キャスター 黒岩 祐治 氏


政局の動き
 今年の政局の最大関心事は解散総選挙があるのかどうかです。予想としては二説あります。一つが6月解散説です。これは国会が終了した時に解散するという事ですが、根拠が薄い。何故か。
 その理由は、「報道2001」で毎週小泉総理の支持率を調査していますが、まだ60%台で推移しています。しかし、党別の支持率を見ると「無党派層」のエネルギーが溜まっています。そのエネルギーを噴火させるための役回りに相応しいのが石原都知事ではないでしょうか。解散後に、新党を立ち上げ選挙に向かえば新党ブームが起こります。民主党や自民党からゾロゾロと加わる事により40〜50人、さらに新人候補を加えるとそれなりの党になります。選挙後自民党と連立して総理大臣になるという事です。小泉総理にはもう降りて貰いたいという声が自民党の中に多いことから現実味があります。逆に小泉総理の立場で考えれば自分の首が飛ぶと言う事ですから、6月解散はあり得ないのではないでしょうか。
 もう一つが9月解散説です。これは、9月に自民党の総裁選挙があります。小泉総理も出るでしょうし、抵抗勢力と言われる人達の中から何人かが出るかもしれない。その時、自民党員は派閥毎に誰に付くのかを決めます。決まった後、いきなり解散するというシナリオです。何故か、それは自民党から石原新党に出ていく人を抑えるためです。ちょっとかっこが悪いですが、小泉総理が再選されない可能性が高いと判断したら実行するのではないでしょうか。この方が6月解散説より現実味があると思います。
 9月を過ぎたら来年のダブル選挙まで無いと思いますが、私個人的には、こんな時に選挙をやっている場合かという気持ちです。


安全保障の問題
 今年は、「選挙と戦争の年」と言われています。
 アメリカが、2月末までにイラクを攻撃するだろうと言われています。私は、アメリカがイラクを叩こうとする姿勢に疑問を感じています。9.11の世界同時多発テロは、世界に衝撃とアメリカ人の心に大きな傷を残しました。あの時、ブッシュ大統領は「対テロ戦争だ、新しい戦争の始まりである。」と宣言し、タリバン政権のアフガニスタンを攻撃しました。アメリカは勝利したと言いましたが、首謀者のビーン・ラディンはまだ捕まっていません。テロの恐怖は去ったのか、いや去っていません。
 ブッシュ大統領の言った「新しい戦争」とはなんでしょうか。その概念は「9.11」の後に出てきた概念ではありません。私は、97年から2年間ワシントンに居ましたが、その当時、ワシントンで一番ホットな話題が「新しい戦争」で、毎週、シンポジウムや学会、議会の動きがありました。「新しい戦争」とは、国とある地域のグループ、テロ集団、あるいは個人の戦いです。その時の兵器は「ABC兵器」です。Aは、アタッシュケースに入るようなポータブルの核兵器、Bはバイオでウィルスや炭素菌等の生物兵器、Cはケミカルでサリンやガス等の化学兵器です。これらの兵器は製造コストが安く「貧者の兵器」と言われています。
「新しい戦争」のウエークアップコールは、95年の東京地下鉄サリン事件でした。東京地下鉄サリン事件は、日本では「オウム事件」として記憶されていますが、アメリカでは「サリンを使ったテロ」と認識しています。97年当時のシンポジウムや学会では、冒頭にこの事件の議論から始まりました。
 アメリカの危機管理のレベルの高さはもの凄いものがあります。東京の事件を、我が事のように徹底的に研究し、どうすれば防げるのか、起きた時はどう対応するのかを検討しています。結論は防ぎようがないから、起きた時のために救急車にサリンの特効薬である「パム」の注射器を配備しました。日本ではどうでしょうか。オウムの関係者の大部分が逮捕されたら「喉元過ぎれば暑さ忘れる」で何の対応もしていません。
 私は、日本もいざという時のために準備すべきだという論文を「文芸春秋」に寄せた事があります。
「新しい戦争」という概念を考えれば、イラクをミサイルで叩こうとするアメリカはおかしいと言わざるを得ない。日本政府は、アメリカが攻撃すると言った時、「核」や「サリン」の被害者であるにもかかわらず、テロの恐怖が増すから止めるべきだと言う議論が全く無く、直ぐにどんな協力をすべきかという話になってしまう事が、私には納得いかない。
 イラクの次は北朝鮮です。北朝鮮は明らかに核開発をしていますから、イラクを叩くという同じ理由で、アメリカは北朝鮮を叩かなければならない。議会では、イラクより先に叩くべきだという意見も出てきています。部隊を中東に派遣している関係で現実には、イラクより先という事はありえませんが、攻撃する可能性はあります。
 その理由は、金正日総書記に対する評価の変化です。イラクと違い平壌を攻撃するという事は、朝鮮半島を血の海にする可能性があります。表舞台に出てくることが少なかった頃は、金正日は攻撃したらどんな反撃をするのか解らない独裁者であるという恐怖がありましたが、表舞台に出てくる姿を見ると、我々が評価しているよりも物事を論理的に判断できるという評価に変わってきている。そうなると、攻撃しても無茶な反撃をしないのではないかと判断して攻撃する可能性が高くなっています。
 その時、日本はどうするのでしょうか。アメリカに一方的に支援するのではなく、戦争を回避させる動きをすべきです。世界的に日本の安全保障に対する姿勢が問われています。


日本経済の動き
 さて、日本経済の動きですが、予想は実に難しい。 今、その動きを取り上げているメディアが問われているのでないでしょうか。メディアは批判をしていればかっこよく見える。ところが、批判ばっかりやっていると分裂状態になってしまいます。例えば、小泉総理が誕生し、「聖域なき構造改革」の必要性を訴えました。そこでマスコミは、これまでの自民党の流れを断ち切ってやることは良い事だ、小泉総理がんばれというのがスタンスだった。構造改革なくして景気回復なし、という事で1年我慢してみた。
 しかし、全く景気は回復しないどころか、株価は下がる一方である。株価は将来の期待感を表す数値です。森総理の時は、支持率と株価の下がるのは一緒でした。森総理が替われば株価は上がると言われました。確かに小泉総理に替わった時に一瞬には上がりましたが、下がる一方です。こうなるとマスコミは、小泉総理は構造改革と言っているだけで何もしていない。不良債権処理にしても、額は減らないで増えているじゃないかという批判になってきました。
 また、不良債権処理についても、竹中財政担当大臣は「不良債権処理を積極的に進める。公的資金を注入しても処理する。」という意見でした。一方、当時の柳沢金融担当大臣は、「銀行は不良債権処理を進めているけど、デフレなので新たな不良債権が発生しているのが現状である。まず、デフレ対策を優先すべきである。」との意見でした。マスコミは、「政権内部に意見の対立があり、抵抗勢力がいる事が問題である。柳沢金融担当大臣を止めさせるべきだ。」というスタンスをとっていました。小泉総理はハードランディング路線で、柳沢金融担当大臣をクビにし、意見の対立の無いように竹中財政担当大臣を兼務にした。その途端、全国の中小企業から悲鳴が上がった。それは、不良債権処理が加速化されれば、中小企業がどんどん潰れてしまう。銀行も国有化され、銀行も潰れてしまい金融パニックが起きるという意見が噴出しました。マスコミでは、これを「竹中ショック」と報道し、これまでの批判を忘れ今度は「デフレ対策が大事だ。」というスタンスに変わりました。これでは、人格破綻としか言いようがありません。
「報道2001」では、私が参加する打合せが週4回あります。そこで、毎週の放送の内容を確認しながら路線を一つにしています。そこで改めて「構造改革」とはなんぞやと考えてみました。「構造改革」という言葉のイメージが悪いのではないでしょうか。構造改革を言い換えれば「経済再生」と言えないでしょうか。再生とは生まれ替わるという事です。生まれ替わると言う事は、一度死んでも構わないという事です。将来のために死ぬこともできます。しかし、日本人のマインドとして死ぬ、つまり、会社の廃業や倒産に対する罪悪感、挫折感が強く、再生モードに入らないという問題があります。経営者の大部分は、経営の悪化を直視しません。いずれ神風が吹く、いずれ景気が良くなるというような考え方で最悪のケースを迎えます。その途中で再生を図れば会社は立ち直る可能性が高いのです。
 私の知り合いの事業再生のプロである田作朋雄氏の手法についてお教えしましょう。その企業を見る視点は、三つあります。「モノ、ヒト、カネ」です。
 この話をすると、銀行が見る視点と同じで常識じゃないかという意見がありますが、順番と中味が違います。まず第一に「モノ」です。「モノ」とは会社の事業の中味です。どういう仕事をしているのか、どんなモノを売っているのか、サービスをしているのかを見ます。金融のプロである銀行の視点である「モノ」とは、どれだけの土地や設備があるかです。これまで銀行は全く事業の中味を見てなかったし、見ようとしませんでした。全て土地担保主義の弊害です。次に「ヒト」です。経営者や従業員にやる気があるのかを判断します。この二つがしっかりしていれば三番目の「カネ」は何とかなる。事業再生の計画がしっかししていれば、銀行との交渉でカネは何とかなります。今は民事再生法の手続きに入ればつなぎ資金でDIPファイナンスもあります。これを積極的に進めているのが日本政策銀行です。政府系金融機関が積極的に進めて、民間銀行が一歩引いている状態です。この状態が改善されれば、もっと再生出来る企業が増えるのではないでしょうか。
 国も事業再生に気付き、4月に官民共同の枠組みである「産業再生機構」を設立します。大変評価すべき事ですが、再生させる企業の判断基準はどうするのかが大きな問題です。これは、私の得意分野である救急医療と大変似ています。大規模災害が起きた場合、トリアージドクターの能力が問われます。大規模災害の現場では、3種類の札が用意されています。一つは黒い札で、これは死亡しているか、若しくは治療しても助からない被害者に、二つ目は緑の札で今すぐ治療しなくても助かる被害者に、三つ目は赤の札で、今治療しなければ助からない被害者に貼ります。トリアージドクターは、一切診療しないで、被害者を一瞬のうちに選別してその札を貼っていきます。その後に、医療部隊が赤の札を貼られた被害者を最優先で治療します。全ての被害者を救う事はできないため、限られた医療資源を有効に使うためには、トリアージドクターの選別能力が必要になります。
 これと同じ事が「産業再生機構」にも言えます。産業再生のトリアージドクターがいなければ、患者を取り違え助かるはずの企業を支援するのではなく、助からない企業を支援するという事態になります。しかし、日本ではこの産業再生のトリアージドクターが少ないの現状です。本来は金融機関に居るはずですがいない。居ないからと言って統一基準を作ったら大変な事になります。統一基準を作るとなれば、多分カネが第一判断になるでしょう。そうなると先程の事業再生の視点と逆になってしまいます。また、政治的判断が入るようでは、産業再生機構が産業延命機構になる可能性が大です。こうなると日本経済の受けるダメージは大きく、「産業再生機構」の果たす役割は、今年の大きなテーマの一つです。
 もう一つ大きな問題に「地域再生」があります。「産業再生」と「地域再生」は別々の問題ではなく一緒に進める手法もあります。その事例を紹介します。熊本県に「黒川温泉」があります。ここは、熊本空港から車で3時間という山奥のまた山奥にありますが、地元ではある程度名前が売れていました。お客の大部分が法人の慰安旅行でした。慰安旅行なので温泉は二の次で宴会が目的のお客が多かった訳です。しかし、景気が悪くなったら客足がパタリと途絶え、土日でも疎らにお客が来る程度で悲惨な状況にありました。そこで、若手経営者が打開策の話し合いを始めました。そこで、あるキーパーソンが見つかります。温泉街の旅館で一軒だけお客の数が減ってない旅館があったのです。それが老舗の「神明館」だったのです。この旅館の後藤社長の露天風呂哲学がお客を呼んでいたのです。その露天風呂哲学は、根本が顧客重視の視点なんです。後藤社長から顧客重視という言葉を聞いた時、日産のカルロス・ゴーン社長の言葉を思い出しました。日産の業績悪化は、顧客を見ずして横のトヨタやホンダを見て車を作っていたのが原因で、ゴーン社長の改革の第一歩が顧客重視でした。それと同じで、顧客重視の露天風呂を作っていたのです。その視点とは、黒川温泉は山奥で自然があると言っても、あるだけでは山奥までお客は来ない。露天風呂から見える範囲で自然を堪能させなければお客は来ない。後藤社長はそのためにこだわりの露天風呂を手作りで作っていたのです。この話を聞いて若手経営者達は行動を開始したのです。まず、景観を害していると言う事で、各旅館の看板をはずし、案内板を作りました。次に各旅館が露天風呂哲学に基づく、露天風呂を作りました。全員が手を繋ぎアイディアを出し、3軒の露天風呂に入れるパスポートを発行しました。これによりリピータが増え、口コミでお客が増えるという好循環を生んでいます。
 この黒川温泉を「産業再生」と考えれば、温泉というモノがあり、それを露天風呂に特化しました。私はこれをコンテンツ化と言いたい。特色作り、個性化を含めた地域の連携によるコンテンツ化があった。次に、後藤社長や若手経営者というヒトがあった。最後に、黒川温泉ではカネで苦労したという話は聞きませんでした。カネは考えなくても回り始めていたという事です。
「産業再生」も、「地域再生」もそこに求められるのは自らの原点に立ち返る事です。新幹線が通れば、高速道路が通れば事業や地域が活性化する時代ではありません。自分以外のところに責任があるという発想が日本経済の発展を阻害しています。全ての答えは自分自身の中にあります。


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