誌上講演
アウトソーシング
成功させる経営条件

株式会社NIコンサルティング
代表取締役 長尾 一洋 氏

 いま、アウトソーシングが企業経営の一手法として注目されています。一般的に、アウトソーシングは大企業ではリストラの一環として行われ、コストダウンを目的としたものと認識されています。しかし、アウトソーシングには3つの条件があり、コストダウンによる収益性の向上のほかに、業務品質の向上とリスクの回避というネライも併せ持っています。
 本会では、中小企業の経営者の方々に「アウトソーシングとは何か?」を知っていただき、その活用によって企業の体質改善が図られることを期待してアウトソーシング・セミナーを開催しました。
 今回は、実際にアウトソーシング業務を手がけておられる長尾氏の講演要旨をご紹介致します。

アウトソーシングのメリット

 アウトソーシングには多くのメリットがあるが、ここでは6つのメリットを紹介する。
(1) 仕事に意義を見出す
 企業にはメインの業務があれば、必ずサブの業務がある。サブの業務はこれを完璧にこなしたとしても、大した評価には結びつかない業務である。しかし、こうした業務もアウトソーシング会社がやれば、付加価値につながるメインの業務になる。清掃などは、まさにそういう業務である。
(2) 経営のスピードアップ
 いま、企業経営にはスピードが求められている。
 自社ですべての体制を整えていたのでは時間がかかり過ぎて、スピード競争に勝てない。これがアウトソーサーを使うことによって一気に実現していけることになる。
(3) 業務品質の向上
アウトソーシングは「外部への業務改善委託」であり、何らかの業務品質の向上を伴うものでなければならない。そうでなければ、単なる下請、外注ということになってしまう。
(4) 社長にNoと言える
 実際にアウトソーシングを受託してみて感じたことだが、第三者だから社長に言うべきことが言える、Noと言えるということがある。
 社員から言われると感情的に対応してしまうの を、第三者の専門家から言われると素直にきき入れてくれる場合が多い。逆にいえば、とにかく自分の言うことをきいてほしいというワンマン社長にはアウトソーシングは、無理といえる。
(5) コア・コンピタンス(自社の競争優位性)への集中
 自社でなければできない、自社の強みの源泉であるコア・コンピタンスの強化に専念できるのがアウトソーシングの戦略的メリットである。
 このコア・コンピタンスが明確にならず、単にコストダウンのためのアウトソーシングを行うのでは企業体質の改善・強化に結びついていかない。
(6) リスク・ヘッジ
 アウトソーシングを活用することで、リスクの回避、最小化が可能となる。新ルート開拓や新商品開発、新規事業の展開に当たって大きな投資や人材を採用する前に、アウトソーシングで様子を見ながら、体制を整えていくことができる。
 閉塞感が漂う現在、安易な投資は命取りになるだけに、アウトソーシングをうまく活用してリスクを回避されたい。

デメリットの克服

 アウトソーシングが多くのメリットを実現するからといって、全ての経営上の課題が解決される訳ではない。アウトソーシングのデメリットとしてよく指摘されるポイントについても触れてみよう。

(1) 社内に業務ノウハウが蓄積されない
 社内のある業務をアウトソーシングすると意思決定したということは、その業務の重要度が低いということであり、アウトソーシングしても最終の判断業務は委託側に残ることになるため、業務ノウハウすべてが流出する訳ではない。
(2) 移行コストの発生
 アウトソーシングを導入する際に、どうしても移行コストがかかるという問題が指摘される。この問題については、事前に委託する業務をしっかり整理しておき移行期間を短くするとともに、初期の移行コスト、委託期間のランニングコストをどのくらいの期間で回収するかを検討しておく必要がある。
(3) 落ちこぼれ社員の発生
 経営者がアウトソーシングでどうしても引っかかるのは、落ちこぼれ社員の発生である。しかし、これはアウトソーシングによって明確になるだけで、アウトソーシングしたから発生するものではないことを理解しなければならない。こうした社員は遅かれ早かれ行き場を失う訳でこの現実を早く社員に教え、それに備えさせることも経営者の務めであろう。
(4) コミュニケーション・ギャップの発生
 社内にあれば「おーい」で済んだことが社外に移れば「おーい」で済まなくなる。そこで、アウトソーシングする際には「社外にあってもあたかも社内にあるかのような」業務運営を目指す必要がある。
 これを実現するには自社とアウトソーシング会社が情報通信ネットワークを結び、必要な情報をいつでも取り出すことができるようにすることである。
 アウトソーシングは単に外部に業務を委託するというレベルだけでなく、ネットワーク活用によって、より高度な業務運営を可能にするものでなければならない。

アウトソーシングはネットワーク・アイデンティティ
(NI)経営の一形態

 企業にとっていま、コア・コンピタンス(自社の競争優位性)が問われるのと同時に、社員にとってはパーソナルアイデンティティ(PI)が問われることになる。要は「あなたの得意って何ですか、あなたにしかできないことって何なの、あなたの持っている価値って何ですか」ということ。このパーソナル・アイデンティティがつながって、一緒になってコーポレート・アイデンティティ(CI)をつくる。「あなたの会社らしさって何なの、あなたの会社でしかできないことは何なの」という会社のコア・コンピタンスが問われますから。これがコーポレート・アイデンティティ。しかし、いまは会社1社では経営が成り立たない時代になってきている。そこで、それぞれの会社のコーポレート・アイデンティティ(=コア・コンピタンス)をつなぎ合わせて補完し合いながら経営していこうという仕組みを私はネットワーク・アイデンティティ(NI)と呼んでいる。

ネットワーク・アイデンティティ(NI)は、個を活かして
全体を活かすポスト資本主義社会の経営コンセプトです。

 このネットワーク・アイデンティティは文字通り、パートナーシップに基づくネットワークづくりをベースに、その価値やネットワークらしさ、他社との差別化ポイントを明確にするという意味を持っており、ポスト資本主義社会における企業経営のコンセプトといえる。アウトソーシングは、このネットワーク・アイデンティティ経営の一形態であり、今後益々普及していくことは間違いないであろう。

アウトソーシングの自己矛盾と
リンクソーシング

 アウトソーシングが進化してくると、社内、社外の垣根がなくなることになる。ということは、企業のインとアウトという企業の枠を前提とした「アウトソーシング」という概念自体が成立しなくなる時期が到来するということである。
 企業の内であれ外であれ、その優位性をネットワークでつないでパートナーシップを確立することで、新たな価値を創造することが求められる。
 私はそれを「リンクソーシング」と呼んでいる。
 リンクソーシングはアウトソーシングの自己矛盾を克服する概念といえる。

リンクソーシングの進め方(推進手順)

 人を切り捨てるためのアウトソーシングではなくて、人を活かすリンクソーシングを是非、進めていただきたい。それを進めるための手順は次のとおり。
(1) キャリアビジョン
 社員一人一人に「あなたは、どういうキャリアを積みたいの。どういう人生を歩みたいの。どういうライフ・プランを持っているの」(=PI)というキャリアビジョンを是非、聞いてもらいたい。
(2) 個人棚卸
 その上で、社員一人一人に「自分の強みはどこで、弱いところはどこだと思う。今、やりたいことは何で、どういうキャリアを積みたいか」ということを考えさせる。
 ところが、これが、なかなか出て来ない。社員は自分のことをこうして考えたことがないし、或いは考える習慣がないから、考えても思いつかない。
 結果、会社に残ってスペシャリストを目指したいという社員がいれば、コア人材として会社に残し、業務レベルを上げさせることが必要である。
(3) 強みを商品に変えよ
 社員に自分の業務をアウトソーシング会社に頼んだらどうなるかを考えさせる(=商品化させてみる)
(4) プライシング
 それをアウトソーシングの相場から換算すると、自分の行っている業務内容はいくらの仕事になるのか計算させる(=プライシング)
(例)自分の行っている業務内容  50万円/月
  アウトソーシング業務委託費 40万円/月
 10万円多く払っているがコア人材であるから、キャッチアップして、業務の効率を上げさせる。
 この方法は、リストラ(人を切り捨てる)の方法ではなくて、個人を活かすやり方である。
(5) 契約という概念で雇用関係を見直してみる
 現在いる社員全員を解雇し、もう一度再雇用すると考えたときに、果たしていくらで雇用することになるだろうか、果たして雇用契約を結ぶだろうかを考えてみる。また、社員本人にも考えさせる。
 その上で、同一人材の専門性を発揮させたり、モチベーションを上げてやったり、勤務形態を変えてやったらいい。
 必要に応じて、再教育プログラムをここで施す。 業務に必要だからと無理やり教育しても非効率である。キャリアビジョン(うちの会社で何ができるのか、何をしたいのか、等)を明確にさせた上で、必要な再教育を施す必要がある。
(6) PI(パーソナル・アイデンティティ)ネットワーク
 ここまでくると、残った社員のPIが明確になる。 そこで、個々のPIをつなげ直して業務の見直しを図る。
(7) 情報共有
 PIをつなげ直すときには、情報共有が必要となる。社内の情報を持たずに、各個人個人がパフォーマンスを会社のために上げていくことはできないから、会社全体の情報を、ここではじめて個人個人に与えていくことになる。この時点ではコア人材しか残っていないので、安心して情報共有すること。
(8) 社外(衛星PIを含む)・社内のソース
 社内のソースで足りない場合には、社外のソース(衛星PIを含む)を探すことになる。社外のソースと社内のソースを組み合わせることによって、新しい価値を生み出すことができる。

※ 指揮者(プロ)と演奏家(プロ)

 指揮者は指揮のプロであるが、バイオリンはそのプロのようには弾けない。また、バイオリニストはバイオリンのプロではあるが、指揮者に合わせて演奏していくことが求められる。両者には上下関係は存在しない。
 これを会社に当てはめると、企業のマネジメントをするのは経営者。現場の業務を行うのは社員。
 経営者と社員が、お互いにプロ同士という関係を構築していくことが21世紀に求められる企業経営のあり方ではないだろうか。
 今後、一般的なアウトソーシングの限界を見極めて、もう一歩踏み込んで、リンクソーシング或いはネットワーク・アイデンティティ(NI)という見方でそのアウトソーシングという手法を分析し直していただくと、中小企業経営を革新させる可能性をもった手法であることをご理解いただけると思う。


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