去る1月13日(水)秋田市「協働大町ビル」において、本会と秋田県中小企業組合士会(柿崎清一郎会長)との共催で「組合士交流会」を、昨年4月に国際交流員として着任した秋田県商政課流通貿易対策室に席を置いている党曉民(ダン・シャオミン)氏を講師に迎え「中国・吉林省と秋田県の経済交流について」のテーマのもと、開催した。(以下は、その講演の要旨である。)

■■■■■ 中国・吉林省と秋田県の経済交流について ■■■■■

1.中国吉林省の生活水準
 吉林省は中国の東北の中部に位置し、東側はロシアに、東南側は図們江、鴨緑江を隔てて北朝鮮に隣接しています。省の面積は18.74万平方キロメートルで、中国全土の約2%を占めていますが、これは秋田県の面積(1.1617万)の約16倍に当たります。人口は約2575万人、漢民族と朝鮮族、満民族、蒙古族、回民族など43の少数民族からなって、秋田県の人口(約120万人)のおよそ21倍になります。このうち都市部の人口は約47%(1205万人)、農村部の人口は約53%(1369万人)という構成です。省都は長春市で、市内人口は約200万人、郊外を合わせて600万人です。基幹産業は自動車及び部品、石油化学工業ですが、食品加工、医薬、電子産業も近年発展して来ました。改革解放二十年以来、吉林省の生活水準は改革開放政策や人口を制御する政策などによって前より大分変わり、中国全体から見れば、ほぼ中流レベルになっています。平均給料はだいたい日本の十分の一ですが、物価は日本の六分の一です。都市の生活水準は日本に近いですが、農村は都市との格差が未だかなり大きいです。都市部では、カラーテレビ、冷蔵庫、電話などが普及していますが、マイ・カーやエア・コン等は値段が高いことや、道路や駐車場の整備が未だ進んでいないこともあって、それほど普及していません。
 資本主義自由競争メカニズムを導入する国有企業の戦略的改組による余剰人員、即ち一時帰休者はもう何十万人にも上りました。企業から「分離」された余剰人員を社会に「分流」する再就職プロジエクトに政府は格別の力を入れていますが、一時帰休者の生活はやはり一時的にジレンマに陥っています。政府は社会的安定の問題を考えて、福祉、医療、失業保険等の社会保険制度の整備、確立を急いでいますが、先進的な日本のような完璧状態までにはまだまだ、時間がかかります。

2.吉林省の経済状況と秋田県との経済補完関係
 吉林省は豊富な天然資源に恵まれ、中部は中国の主要穀物生産地域の一つに数えられています。東部と東南部には木材資源が豊富で、蓄積高、生産高は全国第二位です。省の西部は広い草原で、牧畜業も盛んです。東部には鹿や漢方薬人参など三千種の動植物が生育しています。石油、天然ガス、鉱産物も豊富で、長白山は代表的な観光名所でもあります。 吉林省との経済交流においては、木材(広・針葉樹の集成材、建築材、建具材、フローリング材、4面プレーナ材等)、石材(花崗岩の原石、延石、敷き石、玄武岩の墓石、六方石等)、穀物(コーン、大豆、こうりゃん、蒿麦、緑豆、小豆等)、山菜(天然生松茸、薇、ワラビ、たらのめ、ツリガネ人参等)、野菜(椎茸、ナメコ等)、健康食品類(漢方薬人参、れいし、五味子、桔梗、党参、蜂蜜等)、ピートモス、水苔、自動車部品、化学品などの分野が有望だと思っています。秋田県から中国へは、現在、ダンボール、タイヤ等が輸出されていますが、自動車部品、電子部品等も秋田の中小企業が考えるべきです。 例えば携帯電話ですが、中国本土における携帯電話の登録台数は、96年末の600万台から97年末には1,300万台まで拡大し、98年4月には1,600万台と、日本の3,400万台の約半分に迫る規模となりました。このまま一日当たり約1,3000台のペースで普及すると仮定すれば、単純計算で2000年には4,000万台に達すると見込まれます。現在、中国大陸で使われている携帯電話は、アメリカやスウエーデン製です。軽くて人気のある日本の携帯電話がこの厖大な中国市場を占領出来ないことは、誠に残念なことであると思っています。
 引き続き、中国の輸出入取引のシステムを簡単に紹介させていただきます。80年代では、中国の輸出入業務は対外貿易輸出入公司(国営商社)だけが扱っていたのですが、改革開放政策の実施により、中国に進出した海外企業が「独資企業」「合弁企業」を作り、これらの企業が独自に輸出入業務が出来るようになりました。また、中央政府は90年代の前半に大手企業に輸出入の権限を与えましたが、中小企業に対しては、こうした権限を与えるのは未だ時間がかかると思っております。ですから、皆さんが中国の中小企業と合作しようとすれば、窓口として国営対外貿易輸出入公司(国営商社)を通さなければなりません。
(一つの例を挙げ、説明。)
 吉林省と秋田県中小企業との間では経済相互補完性が強く、合作の可能性が大きく、成功率も高いと思います。しかし、現在の中国のシステムでは、残念ながら「ビジネスチャンス」はどこにでもある訳ではありません。今までの成功と失敗の経験を振り返ってみれば、こちらの考えを中国側の実情に合わせなければなりません。
 日本(秋田県)の中小企業が株式会社・個人民間企業であるのに対して、吉林省の中小企業は、国営の中小企業と郷鎮企業、民間個人企業からなっています。吉林省の国営の中小企業は国の要求により、株式組合性、経営請負、リース、連合、売却、改組、合併などの改革を行って、小型国有企業の自由化と活性化のテンポを速めています。楽観的なことですが、北京市では、企業の性格や所属関係を問わず、国の産業政策と環境保護基準に適支援するとしています。いずれ吉林省もこの政策を採るべきであると考えております。改革後の吉林省の中小企業はもっと活力の満ちたものでしょう。ですから、吉林省中小企業との合作が非常に有望であると思っています。

3.これからの秋田と中国吉林省との交流のあり方
 冷戦直後、世界各国が経済面においての相互協力、相互浸透、相互依存関係がますます強まっています。此の情勢の下では世界のどの国でも完全に世界経済と世界市場を離脱して独自に発展できません。ここ数年来、天然資源、労働力、資本等に恵まれて、地理的に隣接している北東アジア地域における環日本海経済交流圏の経済技術協力はますます盛んになっています。此の環日本海経済交流圏において、重要な位置を持って、日本海を隔てて隣接している吉林省と秋田県の経済交流は更に筆頭に置かなければなりません。
 これまで秋田県と吉林省との政府レベルでの交流は進んでいますが、民間企業レベルの具体的な経済交流はまだまだ不足ではないかと考えています。そこで、これからの吉林省との交流のあり方を考えてみれば、次のようなことが挙げられると思います。

(1) 県庁や市役所(中国から招致した国際交流員も含む)、ジェトロ、商工会議所など、行政や貿易関係機関・団体から、中国貿易についての情報をできるだけ積極的にもらうこと。
(2) 中国国内で開催される各種展示会(長春市、大連市などで開催)やジェトロの貿易振興事業(地域国際化産業交流事業)などに積極的に参加すること。これにより、自社製品の展示により中国市場での反応を知ることができるのはもちろんのこと、現地から調達したい部品・材料の有無なども知ることができます。また、うまくいけば詳しい商談も出来ますし、可能性がある現地工場を視察したりもできます。いわゆる「百聞は一見に如かず」です。
(3) 秋田県では、97年から吉林省からの国際交流員を受け入れており今後も継続する事になっていますが、民間企業においても、吉林省の関連企業から研修員とか研修生を受け入れることを考えてみれば、ビジネスをより一層促進するために役に立つのではないかとか思います。近い将来に注目し、実際の取引を始めるにあたり、その担い手となる人材の育成や交流を重視すべきではないかと私見しています。つまり、吉林省と秋田県の経済関連事情に詳しい人材を数多く育成するのは、大切なことであると信じております。

 97年11月から秋田港は中国東北部の大連港などと国際コンテナ定期航路を開設し、それまでの横浜経由より利便性が高くなりました。また、中国、ロシア、北朝鮮にまたがり日本海に面している図們江地域の開発プロジェクトが90年代初めから国連開発計画(UNDP)により進められていますが、これがうまくいって国際定期航路が開設されれば、吉林省の琿春市から秋田港までの直線距離は800キロメートル弱ですから、両地の貿易はもっと便利になるでしょう。加えて、秋田県は現在、遼寧省の大連市など中国東北部の都市との国際定期航空路線を検討していますが、こうした航空路線が開設されれば、人の移動が成田、北京経由よりかなり便利になるでしょう。ですから、是非中国東北との貿易をご検討ください。

4.秋田県中小企業へのアドバイス
 1998年4月から秋田県に来て、秋田県内や東北地方の企業を30社余り訪問しましたが、秋田や東北地方の企業は、輸出入取引の場合、東京、横浜、大阪、名古屋等の商社経由のやり方が多いということが判りました。もし、商社経由をやめて、直接に海外と輸出入の取引を扱ってみれば、コストの値段も削減出来ますし、秋田港の利用率も向上出来るというメリットが有るのではないかと考えております。原材料と人件費の安い中国吉林省現地で独資企業、合弁企業を作って、中国厖大な市場に向かうほうがもっとメリットが有るのでしょう。




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